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第9話

「慎、えっろ、先っぽクチュクチュ言ってる。ごめん、興奮しすぎて、声抑えらんねぇ…っ。慎、好きだ。死んでからしか言えないなんて情けねぇけど、もう怖いもんなんてないから、何回でも言わせて」  言葉の合間に、幸司の荒い息が聞こえてきた。幸司に好きだと言われるたびに、耳の奥がジンジンして、自身が硬くなってくる。なぜか一人でする時より興奮していた。 「それ以上、好きって、言わないで。なんか、頭が変だ。心臓もばくばく言ってる」  自分で与える刺激に耐えながら、息も絶え絶えに伝えた。やめればいいのに、なぜか手を動かすのがやめられない。 「……手の動き、早くなった。エッチなこと興味なさそうに見えて、意外とこういうの好き? 慎、応えなくていいから、聞いてて。ずっと我慢してた分、もう、とまりそうにないや。慎、好き。好きだよ。本当は直接触りたかった。なんでもう、触れられないんだろう」  まぶたを開け、激しく動く幸司の手を見た。自分よりもさらに大きな手で握られたいと一瞬思ってしまう。  幸司のまっすぐな瞳から、嬉しさと悲しみがごちゃ混ぜになった感情が、心の奥深くまで流れ込んできた。 「……好きって言わないでって、言ったのに。どうしてだろ、幸司に好きって言われると、頭が変になる。俺も触られたいって、思っちゃった。おかしいよな。そんなの、まるで、幸司のことが好きみたいじゃんか」  一瞬、幸司の息も、手の動きもとまった。泣き笑いした顔が近付いてきて、唇が重なる。 「触れられなくても、せめて体温くらい、感じられたらよかったのに」  幸司が呟いた言葉に頷き、舌を空に彷徨わせる。幸司とのキスをリアルに想像できるから、数日で別れた元カノに流されてしたキスも無駄じゃなかったと思えた。  俺の頭の中を悟ったのだろう。幸司はムッとして、絡めていた舌を離した。非難の目を向けてくる。  ピリピリと名残惜しさに震える舌を引っ込めて、俺は呟いた。 「さっきは想像しておけばいいって言ってたくせに」 「完全に片思いだった時と、今じゃ事情がぜんっぜん違うの。俺のことだけ考えて。はい、続き!」 「はい、続き! って、体育の授業みたいなノリで言うなよな……」  今度は幸司のことだけ考えながら、舌を絡ませた。実際に触れているわけじゃないのに、頭の中も体も味わったことのない快感で震えてくる。 「慎、想像してた以上に、すっげぇ可愛い。朝まででいいから、俺のもんになって」  好きだよ、と耳に囁かれ、俺は手の中に精液を放った。  いつの間にか、うとうとしていたらしい。気がつくと山の稜線がほのかに白く光っていた。藍色が徐々に姿を消して、最後まで残っていた金星が静かに薄水色の空にとけていく。  幸司の姿はもう、どこにもなかった。

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