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第46話
葵の細い手が俺の背中に回ると、ぎゅっとしがみついてくる。
どうやら俺のこと、嫌いになったのではないようで。そんな様子にほっとして、緊張していた身体から力が抜けて。
で、葵に尋ねてみた。
「……なあ……お前さっき、何て言ってたの?俺、夢中になってて全然聞こえなかったわ……」
首もとに当たる葵の髪を頬っぺたでぐりぐりと撫でながら「ごめんな」と謝ると、葵は顔を当てたまま、ふるふると首を横に振った。
「……もう、いいの……今、できたから…」
今、できた?
できたって、それって……
「何?お前、俺に抱きつきたかったの?」
「……うん……後ろからだと、先輩が見えなくて……怖くて……前から、ぎゅっとしてもらいたかったから……」
あー……確かにとぎれとぎれに聞こえてた声は、そんなことを言っていたような気がする。
「そっか……ごめん。ちゃんと聞いてやればよかったな」
ちゃんと聞いていれば、抱きしめるくらい簡単にできたのに……バカだな、俺。何だか申し訳なくて葵の髪をまたぐりぐりと撫でると、葵がようやく顔を上げた。
「ううん、いいの。先輩が気持ちよくなれたなら、僕は大丈夫だから」
そう言った葵の顔に偽った様子はなくて、それが葵の本心だと分かって……俺の頭には、殴られたような衝撃が走った。
何だよ、それ。
「あのさ、葵。俺ひとりが気持ちよくなったって、何にも意味がないんだけど?」
セックスってさ……片方だけが気持ちよくなったんじゃ、意味がねーんだぞ?
そんな簡単で大事なこと、分かってねーのか?
「え?だって、僕、先輩が満足できたなら、それでいいよ?」
「いや、だから、それじゃあ駄目なんだってっ。俺だってお前には満足してもらいたいんだよ」
「ちゃんと満足してるよ?……あの……今もちゃんと、射精、したし…」
そう、恥じらう素振りで葵がつぶやく。下なんか向いて、ちょっと顔を赤くするから……何だか俺も恥ずかしくなる。
でも、イけたかイけなかったかの問題じゃあないだろ。
「おっ、おう……それは、見たから分かるけど……でもお前、さっきは我慢したんだろ?」
「うーん……我慢はしたけど……先輩は、何も気にしなくていいんだよ?………でも……僕は…違うから……」
「違うって、何が?」
『違う』の意味が分からん。葵と俺と何が違うんだ?
恋人同士で、一緒にセックスしてて、何が違うっていうんだ?
「……だって、僕は女の子じゃないもん……」
そう、寂しそうにつぶやくと……葵はまたぎゅっと、俺の肩に顔を押し付けた。
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