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6年越しの雛祭り1

「いらっしゃい、さくらちゃん。どっか、適当な所に座ってて!」 「あ、はい……」 久し振りに来た夏生ん家の匂いは、何処か懐かしさを含んでいて。まだ幼い……夏生を好きだった頃の僕が、チラリと顔を覗かせる。 通された客間には、まだ誰の姿も無くて。気が抜けたと同時にホッと溜め息をつく。 折り畳みのテーブルに並べられた、人数分の空のコップやお皿。木の器に入った、雛あられや煎餅。 そして、部屋の半分は占領しているんじゃないかと思う程の、大きな雛壇。 『雛祭りのパーティー、今年もやるから来いよ!』『お袋や姉貴が、さくらを呼べって煩くてさ~』──毎年欠かさず、夏生は誘ってくれる。 それでも。僕がずっと断り続けてきたのは……このパーティーでの、苦い思い出があるから。 「皆に報告がありまーす!」 それは、小学4年生の時。 パーティーに参加していた那月が、突然雛壇の前に立って大きな声を上げる。 集まった子供達が何事かと注目すれば、臆する事無く笑顔の那月が此方に顔を向け、手招く。 「……なっち、ちょっとこっち来て!」 「え、オレ……?」 僕の隣に座っていた夏生が、言われるままに腰を上げ、那月の隣に立つ。 「なんと! |私《わたくし》遼河那月は、……なっちにプロポーズされましたぁ!!」 「………は?!」 「大人になったら、なっちのお嫁さんになりまーす!!」 おおー!! パチパチパチパチ…… 歓声と共に拍手が湧き起こり、それまで反論していた夏生が観念したように口を閉ざす。 「……」 ずっと夏生が好きで。 好きで好きで、堪らなくて。 だけど……最初から諦める事しかできなくて。この想いを、心の奥に封じ込めてきたけど。 お内裏様とお雛様のように並んだ二人に、その他大勢の一人に混じって拍手を送り……胸が潰れそうになるのを堪えながら、必死に笑顔を作ったのを覚えてる。 それから…… 何かイベントがある度に、夏生の傍には那月がいて。今まで僕がいたポジションすら奪われて。 二人の姿を遠くで見掛ける度に、心が折れそうになる程辛くて。 それでも……夏生の友達として、二人を祝福しながら何とかやり過ごしてきたけど。 この雛祭りだけは……どうしても参加できなかった──

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