16 / 54

5

「夏生……?」 心配そうに見つめる那月に気付き、咄嗟に作り笑顔で心情を隠す。 「……あー、男の勲章、ってヤツ?」 顎下に、親指と人差し指を立てた手を構え、視線を横に外し、決めポーズをして見せる。 チラリと、教室内に向ける視線。 既に二人は離れ、後ろのドアに向かって歩く山本の後ろを、背の低いさくらが追い掛ける。 その姿が、可愛くて。健気で。 抑え切れない感情が溢れて弾け、夏生の胸を熱くする。 「アハハッ。……何赤くなってんの?!」 那月の声に邪魔され、直ぐに戻される現実。 恨めしそうに視線を戻した夏生に、那月がにやにやしながら顔を寄せる。 「つーかさ。なっちって、喧嘩とかしちゃうんだぁ~」 「……いや、不意打ちくらって……」 「ハァ~~!?? マジ?! 超ダッサ!!」 容赦なく、那月が腹を抱えてケラケラと笑う。 「……羨ましいぞ、なっち」 「そうだそうだ!」 「イチャイチャ見せ付けんなー!」 「ポッキーゲームとか、絶対すんなよー!」 「すんじゃねーぞ、なっち!」 いつの間にか。  ドアにへばりついて顔を出した野郎共が、二人の様子をガン見しながら囃し立てる。 「──はぁ?! ふざけんなっ」 「あはッ。折角だから、見せ付けちゃおっかぁー、なっち!」 乗り気になった那月が、持っていた小箱からチョコトリュフをひとつ摘まむと、口に含む。 「………はっ? 何コレ……」 それまで嬉々としていた表情が、サッと消える。 「……なっ? 人間の食いモンじゃねーだろ?」 その青ざめた那月に向かって素直な感想を述べれば、眉尻を吊り上げた那月の額に、幾つもの血管が沸々と浮き出る。 「なっちのバカ!!」 ──ガッッ 那月のグーパンチが、夏生の頬にクリーンヒット。 容赦のない攻撃に、夏生の咥内に再び血の味が滲む。 「てゆーかさぁ。さっきから持ってるソレ、……何?」 頬を押さえる夏生に、訝しげな眼を向けながら、下の方を指差す那月。 その先には……華やかなリボンの付いた小さな手提げ袋が。 「あー、ほら。オレってモテるから……」 「──全部喰え!!」 いけしゃあしゃあと言ってのける夏生の口に、手作りチョコが次々と詰め込まれる。 「……おま、ふざけ……、っ」 口端が切れたナツオの食べたチョコは、少量の血と超がつく程ビターなチョコが混ざり合った、バイオレンスな味だった。 violence end……

ともだちにシェアしよう!