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第36話
Side尚
次の日、僕は朔也さんに手を引かれ、怪しい白い施設へと連れてこられた
ロビーのようなところでソファに腰掛けるよう促され、静かに腰掛けると朔也さんがブルーベリー味の飴を僕に渡して受け付けへ向かった
飴をコロコロと口の中で転がしながら彼の背中を見つめていると、何故か奥の部屋へと消えていってしまった
(あれ?どこにいくんだろ…………)
不思議に思ってついて行こうとしたが、優しい朔也さんのことだ
なにも言われなかったということは、この場から動くなということだろう
そう解釈した僕は上げかけた腰をふかふかのソファに沈め直しチクタク……と音を立てている時計を見つめながらひたすら彼を待った
______________
(遅い…………いくらなんでも遅い…………)
時計を見つめると朔也さんが奥に消えてから既に30分はたっている
探しに行きたいが、朔也さんがどこに向かったのか全くわからない
もし探しに行ってすれ違いになったら?
迷子になってしまったら?
そう思ってしまったら、探しに行こうにもソファから動けなかった
不安からもじもじと足を動かしていると、遠くからカツコツ……と高い音が聞こえてきた
そのヒールの音が僕のそばでとまった
不思議に思い、上を見ると昨日のお医者さんが立っていた
「やぁ、尚くん………だよな?」
「あ、は、はい!」
その人は僕の名前を確認するとその場にしゃがみこみ自己紹介をしてくれた
「俺は正音寺将瑠、しょうちゃんってよんでくれ」
「し、しょうちゃん………さん………………」
「くくっ、それでいい」
その人は長い黒髪を左右になびかせながら、緑色の目を細めて優しく微笑んでくれた
それに釣られて笑みを返すと優しく頭を撫でられる
「いい子だな、尚くんは…………
尚くん、少し辛い過去を聞いてみてもいい……かな?」
急に真剣な顔になった彼に、申し訳なさそうに聞かれる
そんな顔しなくてもいいのにな……と心の隅で思いながらコクリと頷いた
「ありがとう、じゃあ少しずつ聞いていくね
あ、ひとつ約束ね
辛くなったら言わなくていいから、言いたくなかったら嫌だって言うこと
いいね?」
「はい」
コクリともう一度うなずく
すると安心した様子のしょうちゃんさんがゆっくりと質問をし始める
視界の隅で朔也さんを一生懸命探しながら、ゆっくりと質問に答えた
まさか、影で朔也さんが辛い思いをとも知らずに………………
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