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第35話

「注射を打つ」 「……薬があるのか!?」 「バカ、違う」 違う、と答えた友人に俺は首を傾げる 違うならどうして注射を打つんだろう 薬じゃないなら、治らないじゃないか それなのに注射を打つ?意味がわからない 疑問いっぱいな俺に、友人はゆっくりと丁寧に説明してくれた 「あのな、セックス依存症って精神的なものだっていったろ?」 「あぁ……言ってたな」 「だったら、尚くんに錯覚を起こせばいい」 「…………は?どゆこと…………」 「お前に、尚くんに施す治療法を伝える…… それは治療と言えるほど良いものじゃない この治療で尚くんは辛い思いをすると思う しかも成功するかわからない それに、確実にお前は嫌われる …………それでもやるか?」 真剣な友人に本当に辛い治療なのだ……と思った だが、その方法で尚くんの病気が治り、幸せな生活を送れるならそれでいい、と強く思った 俺は強く頷くと友人に語りかけた 「俺は尚くんを大事にしていきたい 今まで辛い思いばかりしてきたあの子に幸せを 感じさせてあげたい そのために、あの子の今までの常識を壊すやり方をしてあげたい 好きでもない人に抱かれるのが当たり前だ 暴力を振られるのは僕が悪い子だからだ 誘拐されるのは仕方が無いことだ などと、自分の幸せを諦めるようなことを言っていたあの子を……本当の幸せにしたい その為なら俺はなんだってやってみせる」 「…………言ったな?朔也」 「あぁ、なんでもする 自分を犠牲にしたっていい 嫌われたっていい あの子が幸せになるなら、なんでもしてやる」 「…………そうか 明日、改めて俺の病院にこい そこで治療法を説明する …………嫌われるぞ」 「わかった………… いい、嫌われてもいい」 「もう二度と顔も見たくない、と言われるぞ」 「それでもいい」 「…………ふっ、わかったよ ……待ってるからな」 そういうと友人はとある住所が書かれた紙を俺に渡すと尚くんの元へと向かった ここにいけば、尚くんの地獄が終わる………… 尚くんは苦しみから解放される………… 俺はこれから自分に訪れる地獄も知らずに喜びの涙を零していた………………

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