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第1話
夏の夕暮れ、部活帰り。
汗で湿った俺の髪を、生温い風が揺らす。
「あっち~~……あーー、疲れた……腹へった」
ついさっき日向や、部活の先輩たちと一緒にカレーまんを食べたばっかだというのに、もう空腹を我慢出来なくなるなんて。
腹の音がなる度、どんどん空腹が増してきているような気がする。
ぐうぅぅぅううぅぅぉぅぅぅーーー……
「腹へった……」
「そんなにお腹へったの?
この優しい及川さんが何か奢ってあげよっか!」
「は? ゲッ!
及川さん!!」
突然後ろから声をかけられ、腹を押さえながら振り返った俺は、相手の顔を見た途端思わず変な声を出してしまった。
「ヤッホ~、トビオちゃん久しぶり~
て、ゆーか、何今のゲッてのは?
せっかくこの優しい先輩、及川さんが可愛い可愛い後輩に、何か奢ってあげようと思ったのにさ!
失礼しちゃうよまったく」
「す、すんません……」
及川さんは、ぷんぷんと言いながら頬を膨らませている。
及川さん……
意地悪で、他の人には優しいのに、俺にだけ冷たくて。
女誑しで、見かける度違う女の人を連れていて。
時々ものすごく悲しそうな顔をしてる時があって、それを見ただけで胸が苦しくなって。
でも、笑顔が綺麗で、
ごく稀に見せてくれる優しさにいつも……
ドキドキさせられて
俺の……俺の好きな人だ……
そう意識しただけで顔が熱くなっていくことに気づいて、慌てて顔を背けた。
そんな俺に、ますます頬を膨らます及川さん。
「なんで顔逸らすのー!
せっかく何か奢ってあげようと思ったのに、そんな生意気な態度だと何にもあげないよ!」
「あ……いいっすよ。いりません。
それじゃあ俺帰ります。
お疲れっした!」
「はぁ? ち、ちょっと飛雄!?
なんなのお前、生意気ー!」
一礼して踵を返す。
後ろで何かギャーギャー言ってる及川さんを無視して、早足でその場を立ち去ることだけを考える。
だって及川さんが俺に何か奢ろうとするなんて、どう考えてもおかしい。
何か裏があるに違いない。
全力疾走する後ろから、ものすごい足音がこちらに迫ってくる。
「おいこら飛雄!
待てって言ってるでしょ!
お前が俺に逆らうなんて、随分と偉くなったもんだね」
追い掛けてきた及川さんに腕を掴まれて前に進めなくなり、心中で大きなため息を吐く。
つーか、掴まれた腕がめちゃくちゃ熱いんだよボゲェッ!!
「いやあの、俺……何にもいりません。
早く帰りたいんで、離してもらってもいいっすか?」
「飛雄のくせにうるさいよ。
良いから着いてきな。生意気なお前に話したいことがあるんだよ!」
「は……はぁ……」
昔から及川さんに命令されたら逆らうことが出来ない。
話ってなんだろ?
この胸のモヤモヤが大きくならないことだけを祈って、彼の後ろを俯きながらついて行くことしか出来なかった。
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