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第30話
制服を着た及川さんと私服の俺、朝日に照らされて二人並んで歩く。
只今二人は、俺の家に制服を取りに向かっている。
昨日母さんと話した後、何も持たずに私服のまま及川さんのアパートに向かったから……
まさかあのまま及川さんのとこに泊まるとは思ってなかったし……何も言わずに無断外泊して母さん怒ってねーかな…?
「フンヌフーン♪」
「……及川さん、機嫌良いっすね」
俺の心配を他所に鼻歌を唄う及川さん。
「だってぇ~これから飛雄の家に行くって思ったら、なんかテンション上がっちゃって~
飛雄朝帰りだしぃ~
あ、なんか朝帰りって響きエロいね!
まあ、本当にエロいことしちゃったんだけどねぇ~
お、れ、た、ち!」
またもニヤニヤして、隣を歩く俺の頬をつついてくる。
この人恥ずかしいことを言って、俺の反応を見て楽しんでるんだ。
二人でしたことなのに自分だけドキドキして、及川さんは余裕綽々とかムカつく。
くそーーーー平常心、平常心。
なんて心中で呟いて及川さんの手を掴んだ。
「止めてください」
「このまま手を握っててくれたら、もう止めるしかないね。
離したら今度はツンツンじゃなくて、ほっぺにキスしちゃうかもね」
「へ? キス?」
「それとも本当にキス、ほしい?」
さっきまで人で遊んで笑ってたくせに、突然真面目な顔するなよ……
平常心? そんなこと言われたら、無理だ。
「手を繋ぐのと、キス、どっちがい?」
どっちも……い、い…………
「お前ら、道の真ん中で何見つめあってんだ?」
どこかで聞いたことある声を後ろの方から掛けられて、慌てて振り返った。
そこには、中学の頃に大変お世話になった先輩、岩泉さんの姿があった。
「あ、岩泉さん! 久しぶりです!」
「おう、影山、久しぶり。
つーか、お前ら何手ぇ握って見つめあってんだ??」
「あっ!」
そう指摘され慌てて及川さんの手を離して、後ろに下がった。
岩泉さんと久しぶりにあったのに、まさかこんな恥ずかしいとこを見られるなんて……
岩泉さん、変に思ってないかな?
「もぉーーーー今良いとこだったのにぃ~
邪魔しないでよ岩ちゃん!」
「あぁ?」
「な、何言ってんすか及川さん!!」
「何って俺達今、チューするとこだったじゃない。
いい雰囲気だったのに、岩ちゃんのせいでムードが台無し!」
「岩泉さんに変なこと言うの止めて下さい!!」
「変なことじゃない!
俺にとっては大事なことなの!」
ギャーギャー二人で言い合いしていると、岩泉さんがフッと鼻で笑ったのに気が付いた。
「い、岩泉さん?」
「ちょっと! 何笑ってんの岩ちゃん?!」
「いや、なんだよ及川。
昨日は影山にフラれたぁ~って泣いてたくせに、今日はやけに楽しそうだな」
「ちょっ! 何言っちゃってんの!」
岩泉さんの笑いを含んだ言葉に、声を荒げて赤くなる及川さん。
「そんなに泣いてたんですか?」
「ちょっと! 聞かなくていいからね飛雄!」
「コイツ昨日泣きながら俺に電話してきたんだよ」
「な、泣いてなんかないでしょ!」
「泣いてただろ、影山が本気で好きなんだぁーって。
それでも、俺はお前ら両想いだと思ってたからな。
ウジウジめんどくせぇー遠回りしてないで、早くくっつけばいいのにって中学の時から思ってた」
岩泉さんの優しい笑顔に、キュッと胸が熱くなった。
及川さんは顔を赤くしてモジモジしている。
そんな及川さんがものすごく可愛く見えて、愛しく感じた。
「そうっすね。
ずっと両想いだったのにスゲー遠回りしました」
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