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第31話
赤面で視線を明後日の方向に逸らした及川さんの頭をワシャワシャと撫でる岩泉さん。
「わっ! 止めてよ、髪が乱れるでしょ岩ちゃん!」
「昨日ショボくれてた奴が、楽しそうで良かったよ。
つーかお前がどんな風に土下座したのか見たかったわ!
なぁ影山、そーとーおもれーもの見れたんじゃね?」
「は? 土下座っすか?」
文句を言う及川さんを無視して、髪をか掻き回し続ける岩泉さんの言葉に首を傾げた。
そんな俺の反応を見て、岩泉さんは手を止めて及川さんを睨んだ。
「んだよクソ川? 土下座しなかったのかよお前。つまんねーな!」
「お、俺ぐらいのイケメンは土下座なんて似合わないの!」
「な、なんすか土下座って?」
「コイツ、影山に本気の告白するって、土下座して誠意を見せるって言ってたのに……
土下座無しで両想いかよ。
上手くいきすぎててつまんねーな!」
「そんな話になってたんすね……及川さんには是非ともそのセイイ?を見せて土下座して欲しいっす」
「そ、そんなぁ! 酷いよ飛雄!
土下座はしなかったけど、俺昨日あんなに誠意を見せて、飛雄に大告白したって言うのに!
この気持ち伝わってなかったの?!
愛してるんだよ飛雄!!」
「ふっ、フハハっ!」
「ハハッ!」
「ちょっと! 笑わないでよ!」
あまりの慌てように、思わず二人で笑ってしまった。
及川さんは頬を膨らまして、プンプンと言いながらそっぽを向いてしまった。
良く及川さんには可愛いって言われるけど、今のあなたの方が十分可愛いですよ。
「さ~てと、及川をギャフンと言わせることが出来たし、そろそろ学校行かねーと朝練間に合わねーぞ及川!」
「ギャフンなんて言ってないし!
てゆーか岩ちゃん、俺ちょっと朝練遅れるね。
これから飛雄の制服取りに行くから」
「はぁ? 何言ってんだテメー!」
及川さんの言葉に岩泉さんが、思いっきり眉間にシワを寄せた。
二人の会話に俺は慌てて首をふった。
「いいですよ及川さん!
俺一人で取りに行けますから。岩泉さんと学校行って下さい」
俺のせいで主将の及川さんが朝練に遅れるなんて、そんなの絶対嫌だ。
そんな俺の言葉に今度は及川さんが眉間にシワを寄せた。
「何言ってんの!
俺も飛雄の家に一緒に行くに決まってんでしょ!
一人で行かせるなんてやだ!
俺達付き合ってんだから、飛雄の両親にも挨拶したいし。
と言うことだから岩ちゃん、ちょっと遅れるね」
何故か満足そうに笑う及川さん。
そんな姿を見て、岩泉さんは小さくため息を吐いた。
「なんで及川は制服着てるのに影山は私服なのか気になるけど……
まぁ、今まで離れてた分及川も苦しんでたし、やっと気持ちが通じあったんだもんな。
だから今日は見逃してやるよ。
ただし、今日だけな。二回目はねーからな!」
「岩ちゃんありがとう!」
眉を下げながらため息を吐く岩泉さんの顔は、どことなしか嬉しそうに見えた。
きっと中学の時から岩泉さんは俺達のことずっと心配してくれてたんだろうな。
本当に優しい人だ……
「影山、及川になんか変なことされたら、すぐに俺に言えよ。
お前の代わりにぶん殴ってやるからな!」
「ハイ! あざっす!」
「ちょっと! 変なことなんてしないから絶対!」
岩泉さんは笑いながら学校へと向かっていった。
岩泉さんの姿が見えなくなるまで見送ってから俺は、隣に居てくれる及川さんの腕に遠慮がちに触れた。
「及川さん……付いてきてくれてあざっす……」
「当たり前でしょ。俺達付き合ってんだから!」
「ハイ!」
嬉しそうに満面の笑みを見せてくれる及川さんに、俺も笑顔になれる。
「ねぇ、やっぱり土下座した方がいい?
さっきは岩ちゃんが居たからなんか出来なかったけど、二人きりなら出来るよ。
俺のこの好きだって本気の気持ちが伝わるなら、いくらでもしてあげるよ」
「及川さん……さっきのは冗談ですからね。
大丈夫ですよ分かってますから。
昨日ちゃんと本気で愛してくれたから……」
「トビオちゃんありがと! 大好き!」
なんか自分で言ってて恥ずかしくなったけど、及川さんが嬉しそうだから
まあ、いっか……
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