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第32話

二人で話ながら歩いていると、あっという間に家に到着していた。 家の門に手をかけながら、後ろに立つ及川さんの方へ目線を向ける。 「及川さん、ちょっとそこで待ってて下さい」 「うん。もちろん さすがに家の中までは付いて行かないよ。 早く制服着といで」 笑顔で手をふりながらそう言う及川さんにこちらも笑顔を返すが、家へ視線を戻したらどうしても顔が曇ってしまう。 無断外泊…… 母さん絶対心配してるだろーな…… 俺は今までちゃんとした友達と呼べる奴なんて居なかったし、もちろん恋人も出来たことなかったから、誰かの家に泊まったのは初めてだ。 しかも無断外泊。 今までなかったことだし、なんの連絡もしなかったから、絶対心配してるに決まってる。 スゲー怒られるだろーな。 俺が悪いから仕方ないんだけど。 小さくため息を吐く。 いつまでもウジウジしてても時間の無駄だし、さっさと謝って制服取りに行こ。 俺はいつも通り何事もなかったかのように装い、普通に玄関の扉を開けた。 「た、ただいま……」 それでもどうしてもひきつってしまう顔。 すると家の奥の方から、ドダタタタタと人が走ってくる音が近付いてきた。 だんだん近付いてくる足音。 いつも見慣れた母さんの姿が俺の方へと近付いてきた。 お、怒ってる? 「飛雄、飛雄、飛雄!」 「か、母さん!」 母さんの顔は、恐ろしい鬼のような顔? ではなく、何故かとてもニヤニヤしていた。 「母さん? 昨日は帰らなくてごめんな……」 「ど~こに泊まってたの?」 なんでそんなにニヤニヤしてんだ? もしかして心配し、怒りすぎて逆に笑えてきたとか? それってかなりヤバイような…… 「ん? 何処に泊まってきたのよ?」 「いや、あのさ……」 滅茶苦茶怒ってる人に何て言えばすぐに納得してもらえるんだ? つーか、何て言えば良いんだ? 恋人の家? でもすぐ後ろに及川さんいるし、恥ずかしくてそんなこといえねぇ! 俺は何も言えず目を泳がしていると、母さんがとてもニコヤカにとんでもないことを言ってきた。 「昨日は恋人のところに泊まって来たんでしょ?」 「へ? なんで知って……」 「やっぱりぃ~! だって昨日飛雄、私が恋人が出来たらちゃんと美味しいって言ってご飯食べてあげてねって言った直後に、突然立ち上がって出ていくから~ しかもその後帰ってこないから、これは絶対恋人がもう出来てて、その恋人に会いに行ったのね! と思ったって訳! どう? お母さんの推理当たってるでしょ? まさか飛雄にもう恋人が出来てたとはねぇ~ 今度家にちゃんと連れてきなさいよ!」 なんて、とてつもなく笑顔で俺の手を嬉しそうに握ってくる母さん。 女の勘ってスゲーな、バッチリ当たってるし…… なんて思っていたら…… 「飛雄のお母さん! その恋人、後ろにいますよ」

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