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第33話
後ろから聞こえた及川さんの声に、母さんはこれでもかというぐらい大きく目を見開いた。
及川さん……
俺達昨日付き合ったばっかなのに、もう親に紹介するのか。
なんかすごいドキドキして緊張する……
母さん何て言うかな?
不安になって、目を見開いた母さんの顔色をうかがった。
その顔は驚いたような顔をしながらも、小さな笑みを含んでいた。
なんで……?
「え? 及川くん? 久しぶりねぇ~」
「お久しぶりです飛雄のお母さん」
満面の笑みを浮かべてこちらに近付いてくる及川さんに、母さんも戸惑った表情をしながらも笑顔を返している。
え!? 久しぶり?
どういうことだ?
俺家に及川さんを連れてきたこと無いんだけど……
二人は何処で知り合ったんだ?
頭上に沢山のハテナを浮かべていると、母さんが笑いながら話してくれた。
「あなたがまだ中学一年の時に、部活が終わった後疲れて着替えながら寝ちゃったとかで、及川くんが家までおんぶして連れてきてくれたことがあったのよ」
「マジで! 全然覚えてねーんだけど……」
「そりゃ飛雄はずっと眠ってたからね」
まさか中一の時にそんなことがあったなんて。
ずっと嫌われていると思ってたから、おんぶされてる時に目が覚めてたらスゲービックリしただろーな。
両想いになった今、ちょっと昔の自分が羨ましいなと思ってしまう。
「まぁ~~! それにしても背も延びて、ますますイケメンに成長しちゃってぇ~!」
「ありがとうございます」
笑顔で話す二人に今度はこっちが戸惑いながら呆然と立ち尽くす。
すると及川さんが突然肩を叩いてきた。
「何してんの? 早く制服取りに行きなよ」
「え? あ、ハイ……」
「ねーねー及川くん、そう言えばあの時ね」
俺の背中を押してから及川さんは、ニコヤカに母さんと話している。
そんな二人の話がすごい気になる。
俺は後ろ髪引かれながら、家の中へと入った。
急いで制服に着替えて戻ると、母さんの楽しそうな大きな声が響いていた。
まだ話してたのか……
「あの時の飛雄ったら及川くんの首にガッシリしがみついてて、下ろすのにすごく苦労したわよねぇ~」
「あぁ~~、あれは苦しかった。
でも、ちょっと嬉しかったりもしたんですけどね……」
「まぁ~~~~!」
うふふふふ、あははははと楽しそうに話す二人に慌てて近付く。
「何、人の恥ずかしい過去話で盛り上がってんすか!」
「う~~ん……じゃあ、現在の大切な話でもしよっか!」
「えっ!」
心臓がドキリと脈打った。
及川さんはニコヤカに、でも真っ直ぐな瞳で母さんを見つめながらこう言った。
「飛雄のお母さん、俺達今、真剣に付き合っています。
飛雄のこと本気で好きなんです。
この交際認めていただけませんか」
及川さんは礼儀正しく深々と頭を下げた。
あの及川さんが俺のために、こんなに真剣な顔で頭まで下げてくれるなんて……
嬉しくて、なんか泣けてくる。
手で口をおおって目を潤ませていると、母さんと目があった。
母さんは、とても優しい顔で微笑んでいた。
そんな母さんの顔にも、胸が熱くなった。
「なんか……すごくビックリした……
でも、及川くんはとてもいい人だし。
飛雄が自分で選んだんだもの……飛雄の人生なんだから、あなたが真剣に選んで進んでいけばいいわ。
それに、私がとやかく言ったって、あなた達はそんな簡単に別れるわけないでしょ?」
「はは……まぁ……」
「…………」
及川さんは照れ臭そうに、でも嬉しそうに笑った。
そんな及川さんを見て、ますます目頭が熱くなる。
「恋愛は人それぞれの形があるんだから、どんなのが正しいとか正解なんてないと思うの。
飛雄が自分で正しいと思う道を好きに歩みなさい」
「母さん……ありがとう」
「なんて格好つけてみたけど、私とお父さんも、駆け落ち寸前みたいな形で結婚したけど、後悔はしてないから。
だから、飛雄も自分の思うように、後悔しない道を歩んで行きなさい。
応援してるからね!」
俺達は二人同時に勢い良く頷いた。
まさか母さんがあんな笑顔で応援してくれるなんて思わなかった。
すごく嬉しかった。
俺達昨日付き合ったばっかだけど、
それでもずっとずっと前から両想いだったから。
初恋だったから、今でもすごく愛してるから。
だから、俺達はこれから先も大丈夫だよ。
母さん……安心してずっと見守ってて下さい
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