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第34話

母さん、ありがとう そう心の中で何度も呟きながら、好きな人と学校までの道を歩む。 なんか、幸せだな……なんてそんなことを思って隣の彼をそっと覗き見すると、どうやらむこうも俺のこと見ていたようで、視線がぶつかってしまった。 そんなことにもいちいちドキドキしてしまう。 恥ずかしくて慌てて視線を逸らすと、及川さんが小さく笑った。 「なあにトビオちゃん?」 「お、及川さんこそ、こっち見てたじゃないですか…… なんですか?」 「ん~~……いや、やっぱりトビオちゃん可愛いなぁ~と思って見てたんだよ」 ニコヤカに微笑みながら、ますます恥ずかしくなるようなことをサラリと言って退ける及川さんに、やっぱりますますドキドキさせられたななんて思う。 きっと俺今、すごく顔真っ赤だ。 それを見られたくなくて俯くと、不意に手をギュッと握られた。 「お、及川さん!? ここ外ですよ! 誰かに見られたら恥ずかしいです」 俺は周りをキョロキョロと見渡してそう言って離そうとしたが、その力よりも強く手を握られる。 「良いじゃん見られても。俺達付き合ってんだから。 飛雄のお母さんにもちゃんと認めてもらえたし。 それに、こうやって手を繋いでれば、飛雄が俺のものだって周りに教えることが出来るでしょ」 「誰に教えるんですか……もう……」 及川さんは本当に嬉しそうに微笑んでから、俺の手を引いてどんどん前に進んで行く。 そんな暖かい温もりに笑みをこぼしながら、大好きな人の傍にいられる喜びを噛み締めた。 ドキドキしながら歩いていると、あっという間に烏野に到着してしまった。 「すんません。 及川さんも朝練あるのにこんなとこまで送ってくれて……」 「良いんだよ。 少しでも長く飛雄と一緒にいたかったから」 「及川さん……あざっす」 一緒にいたかった…… 俺にそんな言葉を言ってくれる人が出来るなんて思わなかった。 すごく嬉しい。 「校門まで送らせて」 「あざっす!」 俺達は今もしっかりと手を繋いでいる。 家から学校までの間、沢山の人達に繋いでるのを見られたけど、 そんなことより、今及川さんと手を繋げてる喜びの方が俺の中で大きくいっぱいに膨れ上がってて、他のちっぽけなことなんて何も気にならなくなっていた。 「影山!」 二人で烏野の校門の前まで来たところで、誰かに大きな声で名前を呼ばれた。 及川さんを見ていた視線を前に向けると、すんごいスピードでこちらに走ってくる日向と月島の姿が見えた。 日向と月島は俺達を見た瞬間、眉間くっきりと深いシワを寄せたのが分かった。 そんな二人に俺は思わず口を引きつらせたが、及川さんは何故か俺の手をギュッと強く握ってきた。 少しビックリして隣を見ると、なんとも言えない怪しい笑みを浮かべていた。 な、なんで三人とも変な顔してんだよ? コエーよ…… 「……王様遅かったね…… 休むとも連絡無かったから、皆心配してたよ」 「ま、マジか! わりぃ……」 まだ眉間にくっきりとシワを寄せたままの月島の言葉に後退りながらも小さく頭を下げた。 そこで突然日向が、及川さんと繋いでない方の手を強く引っ張ってきた。 「影山!!」 「な、何だよ日向! こんな近くでデケー声出すなボケ!」 「昨日大王様のこと避けてた癖に、なんで今日は手なんか繋いでんだよ! おかしーだろ!! 放れろよ!!!!」 そう言って顔を真っ赤にさせた日向が、俺の腕をグイグイ乱暴に引っ張ってきた。 あっ! 及川さんと手が離れる! もう烏野に着いたし手は離さないといけなかったんだけど、こうやって日向に引っ張られて離すのはなんか嫌だ。 俺は離れそうになった及川さんの手を求めるように強く握って、日向を睨んだ。 「引っ張るな日向ボケェ!!」 「影山ぁ!」 そこで、今まで怪しい笑みを浮かべたままずっと黙っていた及川さんが、素早く動いて俺を抱きしめた。 「お、及川さん!」 身体に与えられた温もりに、ドキッと鼓動が音を立てた。 及川さん! 日向達が見てるのに、こんな外で抱きつかなくても! 離れたくないけど恥ずかしくて、少し身体を離そうとしたら、反対に強く抱き込まれた。 ますます ドキドキする。 恥ずかしくて恥ずかしくて、でも動けなくて。 及川さんの腕の中で耳まで、熱くなっていくのを感じながら俯く。 すると今度は月島が眉間のシワを更に深くさせて、俺の腕を掴んできた。 「すみません大王様。 うちのセッターを放してくれません?」 「断るって言ったら?」 余裕そうにフフンと笑う及川さんを不機嫌そうに睨み付ける月島。 その後ろの方でまだ赤面のままの日向も、及川さんを睨んでいた。 なんだこれ? なんで俺、睨み合いの真ん中にいるんだ? 意味分かんねぇ 困惑する俺を引っ張り合う二人。 「断るってなんですか? 何なんですかあなた? その手放してください」 「やぁ~~だよっ!」 「だ、大王様!! 影山を放してくださいコラ!」 引っ張り合う二人に更に日向も加わって、三人が火花を散らして、今にも燃え上がりそうだった。 本当になんだこれ! イテェよ! マジで痛い! 「お、お前ら…や、やめ、ろ……」 痛さのあまりそう訴えたが、三人の耳に切れ切れの俺の声は届いていなかった。 そこへ……

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