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第35話
「騒がしいと思ったら、お前らこんなとこで何やってんだ!!」
「ぴゃっ!」
突然、何処からともなく聞こえてきた怒鳴り声に、日向がビックリして俺から飛び退いた。
及川さんと月島も手を止めて声が聞こえた方に視線を向ける。
た、助かった……
けど、この声って、
俺も三人と一緒の方向に目をやるとそこには、恐ろしい顔をした澤村さんと、眉を八の字にさせた菅原さんが立っていた。
澤村さんに睨まれ、月島は仕方なくといった感じで、ノロノロと俺から離れた。
しかし、及川さんはまだ俺に抱きついたままだった。
「やっほ~~☆
主将くんに爽やかくん、久しぶり~♪」
「及川……なんでお前が烏野にいるんだ?
影山から放れろよ」
澤村さんはニコリと笑いながらそう言ったが、どす黒いオーラが揺らめいているのが分かる。
笑っているのに恐ろしくて、無意識に背筋がピンと伸び、嫌な汗が頬を伝った。
こ、こえー……
恐ろしい笑顔を見て、日向なんて半泣き状態だ。
そんな俺達を見て苦笑いをしながら、菅原さんが澤村さんの肩をポンと叩いてから前に出た。
「大地顔怖いって。
……及川が烏野になんで来たかは知らないけどさ、影山から放れてくれる?
及川にとって影山は中学の時の後輩かも知れないけど、今は烏野の、俺達の大切な仲間なんだよ。
だからさ、そこんとこちゃんと理解して行動してほしいな」
大切な仲間……
菅原さんの言葉に涙が出そうになる。
俺にとって烏野の仲間はすごく大切な存在だ。
でも、及川さんはやっぱり特別で……
俯く俺を及川さんがギュッと抱きしめた。
「爽やかくん。
俺にとって飛雄は、ただの中学の時の後輩じゃないんだよ。
飛雄は俺の可愛い特別で大切で、大好きな恋人だよ!」
そう優しく微笑んで、及川さんは俺にキスをした。
「皆、飛雄は俺のものだからね。
よ~~く覚えといてよ!」
唇に触れた暖かい感触に、ますます鼓動が早くなって、顔が熱くなっていく。
皆の前でキスするなんて、あんたって人は……
唇に残ってる熱い体温、及川さんの満足そうな笑顔
恥ずかしくて、でもキラキラしてて
クラクラする……
「あんた何やってんですか!」
顔を真っ赤にさせた月島が及川さんを睨み付けた。
日向も顔を真っ赤にさせて、気を付けの姿勢になって固まり、ピクリとも動かない。
「何って、チューしたんだよ」
「な、何サラリと言って────」
「お、及川と影山は付き合ってんのか?」
赤面で目を泳がす月島を押し退けて、菅原さんが目を見開いた状態で俺を見つめてくる。
恥ずかしいけど皆の目の前でキスしちまったし、もう隠せねーよな。
ちゃんと言わないと……
「お、俺……及川さんと、つ、つ、付き合ってます……」
俺の言葉に皆は、目が飛び出てしまうんじゃないかってほど大きく見開いて、澤村さんなんかは恐ろしい形相で詰め寄ってきた。
「影山! お前何言ってんだ?!
及川と付き合ってるとか、そんなこと冗談でも言うな!!」
あまりの恐ろしい慌てように、言いたいことを飲み込んでしまう。
冗談じゃないのに。
俺達は本当に本気で付き合ってる。
でもそーだよな。
俺が反対の立場だったとして、誰かが及川さんと付き合ってるとか言い出したら、スゲービックリして、すぐには受け入れられないかも。
皆が戸惑う気持ちは分かるけど、でもやっぱり及川さんと付き合ってるって恥ずかしいけど堂々と言いたかった。
思わず俯いてグッと拳を握っていると、頭に暖かい感触が与えられ、ビックリしながらも顔をあげた。
そこには優しい笑みを浮かべた菅原さんが、頭を撫でてくれていた。
「あ~~、なんで可愛い影山の相手がこの及川なんだろ? 絶対認めたくない。
認めたくないけど、俺も男と付き合ってるし。
可愛い後輩がこんな顔してまで正直に好きで付き合ってるってちゃんと話してくれたんだから、俺は反対出来ないな。
ちょっとは応援してやりたくなる。
なぁ、大地? 大地もそーだろ?」
なんて笑って優しく言いながら、なんか聞き流せないことをサラリと言われた。
え? 男と付き合ってる?
俺は恐る恐る澤村さんに目線を向ける。
月島達も顔をひきつらせながら澤村さんに目線を向けた。
「す、スガ! お前何言って……~~~~っ!」
澤村さんは湯気が出そうなほど顔を赤面にさせて、黙りこくってしまった。
菅原さんは、なんだか嬉しそうにニコニコしている。
「俺達がずっと言えなかったことを、影山はちゃんと話してくれたんだ。
その勇気はちゃんと認めてやらないとな!」
「スガ……」
微笑んで見つめあう二人。
二人は本当に仲が良いなとはずっと思ってたけど。
まさか付き合っていたなんて、全然気がつかなかった。
そっか……二人も俺達と一緒だったんだ。
それが分かって、なんか嬉しかった。
恥ずかしそうに笑う澤村さんに笑みがこぼれる。
「でもなスガ……
俺は、相手がこの及川なのがどうしても許せないんだが……」
「本当にな。
相手が及川じゃなかったら、もっと素直に喜べたのに……」
「ちょっと! それどーゆう意味?」
困り顔で長いため息を吐く二人に、及川さんが頬を膨らませる。
「影山……本当に及川で良いのか?」
心配そうにそう言って眉を下げる菅原さんに、俺は笑顔を向けた。
「ハイ! 及川さんが良いんです。
俺は及川さんじゃないとダメなんです!」
そう笑ってから、真っ直ぐに及川さんを見つめる。
及川さんには沢山意地悪されたけど、それは愛情の裏返しだって分かったし。
本気が伝わるから。
それに何より、俺も中学の時から及川さんをずっと尊敬してて、
ずっと好きだったから。
だから、俺は
「及川さんが良いんです……」
「飛雄っ!」
及川さんが目をキラキラさせて、笑顔でこちらに手を伸ばしてくる。
俺も手を伸ばしかけたところで、スパンと菅原さんが及川さんの手をはたいた。
「いった……ちょっと爽やかくん。
今、感動のシーンの真っ最中だったのにぃ!」
「何が感動のシーンだよ!
影山がどうしても及川が良いって言うから仕方無く認めてやるけど、完全には認めてないべ!
もし、影山にちょっとでも酷いことしたら……ただじゃおかないよ?」
「影山! 及川に何かされたら、すぐに俺達に言うこと。
分かったな!」
「う、ウス!」
真剣な強い目をした澤村さんに言われ、俺はピシリと背筋を伸ばして返事をした。
そんな俺の手を、及川さんがしっかりと握ってきた。
「二人とも~、大丈夫だよぉ~
絶対大切にするし、離さないから!」
そう言って嬉しそうに笑った及川さんに、俺も一緒に頷いて笑った。
「ハァーーーー……もう分かったよ。
ラブラブするのはどっか俺達に見えないとこでやってくれ……」
「影山、何かあったら、すぐ俺達を頼れよ。
何でも相談にのってやるからな!」
「ハイ! あざっす!!」
二人は優しく笑って、立ち去っていった。
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