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第36話
二人の姿が見えなくなったところで、及川さんがギュッと強く手を握ってきた。
それに笑みをこぼして握り返す。
「良かったね。皆に認めてもらえて」
「そーですね。良かった……」
母さんにも、二人にも認めてもらえるなんて思わなかった。
絶対反対されると思ってた。
でも皆が俺達のこと認めてくれて、こうやって好きな人の傍にいられる。
それってすごく嬉しくて、幸せなことだと思った。
良かった、皆ありがとう……
嬉しくて二人で笑っていると、後ろからこの穏やかな空気をぶち壊すようなドスのきいた声が聞こえてきた。
「みんな? 僕は認めてないけど?」
「そうだぞ。絶対認めないからな大王様!」
後ろを見ると、何とも言えない顔をした月島と日向が、思いっきり及川さんを睨み付けていた。
そんな二人を見て、楽しそうに及川さんは笑った。
「二人も、こうやって飛雄と手ぇ繋ぎたい?」
そう言って不敵に笑い、握っている俺の手の甲にチュッとキスをしてきた。
突然手に与えられた柔らかい感触に、心臓が音をたてだした。
「及川さん、あんたまた人前でこんな恥ずかしいことを!」
「フフフ、トビオちゃん顔真っ赤だよ。
あ、そこの二人もか……」
及川さんの言葉に焦りながら二人を見ると、その言葉通り二人も何故か顔を赤くさせていた。
「図星、なんだ?」
わざとらしく口角を思いっきり上げる及川さん。
図星? どーいう意味だ?
三人の反応の意図が分からず、ただ首を傾げることしか出来ない。
「何言ってんですか?
変なこと言うの止めてくれません」
真っ赤になって眉間にシワを寄せて、及川さんを睨み付ける月島。
「俺、変なこと言った覚えないけど?
ねぇ、チビちゃん、図星だよね?」
話をふられた日向が、ビクッと肩を震わせた。
口も一緒に震わせている。
しかし、目は鋭く強い光を放っており、真っ直ぐに及川さんを見据えている。
「だ、大王様の言う通り、で、す……
でも俺、負けません!
俺は影山と同じ学校で、相棒で、大王様より長く、ずっと影山の傍にいるから!
だから、だから、大王様には負けません!!」
強い瞳のままそう言いきった日向に、及川さんが目を見開いた後、眉間にシワを寄せた。
顔を歪ませた及川さんに首を傾げながら、俺は日向を睨んだ。
「何言ってんだよ日向?
同じ学校なんだから近くにいるのは当たり前だろ?
お前は俺の相棒だし……」
そう言ったところで俺の言葉を遮ってから、及川さんが前に出た。
「ちょっと! 今チビちゃんは俺と話してんだよ。飛雄は黙ってな!」
「う、ウス! ……すんません……」
強い口調で言い放たれ、慌てて頭を下げた。
年上の人にはやっぱり逆らえない。
及川さんはまだ眉間にシワを寄せていて、何とも言えない黒いオーラを醸し出しているように見えた。
でもさっき、一瞬悲しそうな顔をした気がしたが、気のせいだろうか……?
日向もそう思ったのか肩を震わせながらも、それでも及川さんから目を逸らさない。
強く真剣な瞳で真っ直ぐに。
その真っ直ぐな眼差しに、及川さんはさっきの不敵な笑みとは違うどことなしか強気な、でも優しさを含んだような笑みを浮かべた。
「俺だって誰にも負けないよ!
確かに、俺と飛雄は……学校違うからずっと傍にはいられない。
それでも心と心は繋がってて、ずっと一緒だから。
だから大丈夫だよ。
ね、飛雄。そうだよね!」
「は、ハイ!!」
及川さんの笑顔の問い掛けに慌てながらも、俺も笑って頷いた。
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