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第231話

「飛雄、急いで! 遅刻しちゃうよ!」 「及川さん、俺は大丈夫ですから、青城に行ってください。及川さんの方が遅刻しますよ!」 「バーカっ! 俺を誰だと思ってんの! この及川さんが遅刻するわけないでしょ」 「前俺を送って遅刻したくせに……」 俺の腕を引っ張りながら走る及川さんの後ろで、俺はボソリと不満を呟く。 「なーーにぃーー? 聞こえなーい」 「んでもないっす!」 …………視界が滲み呼吸が出来ないほどの甘いキスを、何度も繰り返した。 まだまだ続いていくのか…… そう考えていた俺に及川さんは、 「ストップ! そろそろ準備しよーか飛雄! 言ったでしょ? 遅刻しないようにするって」 そう笑って唇を離し立ち上がる及川さんに、また熱を持ち始めていた中心に待ったをかけた。 「俺だって辛いんだよ。 でもやっぱり遅刻しちゃあまずいしね。 だから、続きはまた放課後に……ね♡」 悪戯っぽく微笑んで寝室を後にする及川さんに、俺は無理矢理熱を抑え込んだ………… そしてただ今、二人揃って学校へと全力疾走していると言うわけだ…… まぁ、俺だって朝練したかったし、及川さんにだってバレーを絶対サボってほしくなんかない。 及川さんには、もっともっと上を目指してもらわないといけないんだ。 俺の目標で、追い付いて追い抜かしたい人だから。 それに俺達には放課後が、 それだけじゃないこれからがあるんだ。 だから、焦る必要なんてない…… 「あっ、かっげやまー! おっせーぞ! もう少しで朝練始まるぞー!!」 烏野が見えたと思った瞬間、校門のところで日向が手を振っているのが視界に映った。 その隣には月島の姿もある。 胸が1つ音を立てたのが分かった。 それに及川さんが微笑んでから、日向達に手を振る。 「おはよ~チビちゃん、メガネくん♪」 「大王様おはっス!!」 「おはようございます……影山もおはよう」 「お、おっす……」 「なんなのその余所余所しい挨拶は?」 月島の影山呼びが慣れなくて、ますますまともに目が見れなくなって、逸らしたまま挨拶した俺に月島が眉を下げて笑った。 「うっせぇ……よそよそしく? なんかねーよ……」 「余所余所しいの意味分かってないでしょ? だって今の挨拶は友達にする挨拶じゃなかったでしょ? もう一回やり直して」 月島の友達と言う言葉に、不安な気持ちが少しずつ薄れていくのを感じた。 思わず、ムズムズと唇が動く。 「お、オッス、つ、月島!」 「はは……なんで吃るの? まぁ、それで許してあげるよ。だって僕達友達だしね」 「お、おう……!」 また友達って言われて思わず口角が上がる。 俺と月島は友達……そう友達なんだ。 それが途轍も無く嬉しかった。 また唇をムズムズと動いてしまった俺の頭を、及川さんが優しく撫でてきた。 「もう大丈夫そうだし、俺はそろそろ行くね」 そう言って笑った及川さんに、月島とのこと心配してくれてたんだなって理解して、それにも嬉しさがこみ上がる。 そんな俺の両肩に、月島と日向が手を乗せた。 「大王様、大丈夫ですよ! 影山のことは任せてください!」 「大王様、ありがとうございました」 いつもの太陽のような笑顔を見せる日向と、珍しく笑った月島が手を振る。 それに微笑み返す及川さん。 「二人ともありがとう! じゃあ、また迎えに来るからね! ちゃんと待ってなよ飛雄」 「ハイっ、及川さん!」 俺の両隣には、大切な友達が…… そして、また俺に会いに来てくれる、 愛しい恋人、 及川さんがいる…… 俺の周りを暖かくて、心地好い風が吹き抜けていくのが分かって。 これが本当の幸せなんだなって感じた

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