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第233話
「トビオちゃ~~ん!! お待たせっ!」
放課後、烏野校門前、及川さんが迎えに来てくれるのを、ずっと待っていた。
足音の後、俺を後ろから思いっきり抱き締めてきた及川さんの息は、上がっていた。
走って来てくれたんだ……
「遅くなってゴメンね……」
「及川さん……そんなに急いで来なくても良かったのに。
ゆっくりでいいんすよ」
「だって飛雄に早く会いたかったんだもん……
ゆっくりでいいとか言って……飛雄は及川さんと早く会いたくなかったの?」
俺を抱き締める腕に力を込めていじけた声を出す及川さんに、嬉しさで笑みが溢れてしまう。
「もちろん早く会いたかったですよ」
「嘘だ! 急いで来なくてもいいとか言ったじゃん。
早く会いたいなら、急いで来てって言うはずだもん!」
「そんな我が儘言えません。
俺のために及川さんを急がせてしまうなんて嫌です……」
「恋人に早く会いたいんだよ?
急ぐに決まってるじゃん!
それに俺は我が儘言ってほしいよ……
飛雄はいっつもいい子で全然我が儘言わないからさ、及川さん不安になって、飛雄の愛を疑っちゃうよ……」
「俺のこと疑うんすか?
俺のこの顔を見てください。
この顔を見て、まだ愛が足りないって言えますか?」
抱き締めてくれる腕をギュっと握ってから、及川さんに顔を見せようと後ろへと首を回して見せた。
及川さんへ愛しさを込めて、満面の笑みと大好きだって気持ちを届ける。
俺の顔を見た途端、彼が少し恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに口角を上げてくれた。
「どーすか?
俺のこの気持ち、伝わりましたか?」
「すごい、伝わってきました……
俺も大好きだよ飛雄」
「は、はい……疑いが晴れて良かったです……」
及川さんの大好きって素直な言葉と、この甘ったるい会話に、今更だけど恥ずかしさがジワジワとこみ上がってきた。
顔が熱くなってきて、隠すように俯こうとした俺を見た及川さんが、ここは外なのにとんでもないことを言ってきた。
「飛雄可愛い……チューしたくなった……
チューしよ」
「は、はぁ!? む、無理です!」
「なんでさ? 俺のこと大好きでしょ?
だったら、飛雄もチューしたいよね……ね?」
「こ、ここ、外ですよ!」
「いーじゃん外でも」
「だ、ダメです!!」
「えーー……? じゃあ、無理矢理しちゃお!」
「はぁ!? や、やめてください……」
「ふふ……顔真っ赤。本当は飛雄もしたいんだね?
ホラ! しよ?」
「なっ! な、なな……ちょっ、ちょっと及川、さん……」
俺の頬を両手で包み込んで、唇を近付けてくる及川さん……
本当は俺もしたいし……
外だけど、キス、してもいいかな……
そんなことを思いながら、ゆっくり、ゆっくりと近付いていく二人の唇…………
「わっ、わあぁあああぁぁぁああぁあぁぁああああぁぁぁっっっっ!!!!」
突然の叫び声
目を見開いて、叫び声がした方へ慌てて目線を向ける。
「なっ、何本当にキスしようとしてんだよ!!
バ影山!!」
「外と知りながらキスしようとするとか……
本当に君達あり得ないんだけど」
「ひ、日向! 月島っ!!」
これでもかと真っ赤な顔をして叫ぶ日向と、顔を赤くしながら呆れ顔をする月島に睨まれていた。
や、ヤベー……
「ふ、二人が一緒に待ってくれてたの、すっかり忘れてた……」
「忘れないでよね……」
「そ、そーだぞバ影山!
大王様が遅くなるってゆーから、一緒に待っててやったのに!
そんな優しい友達を忘れてキスしようとするとか、本当にあり得ねーぞ!!」
「仕方ねーだろ忘れてたんだから……
そ、その……悪かったな……」
「本当にバカだね……」
「う、うっせぇボゲェ! 謝ってんだろ!!」
「まぁ、俺は二人が居ること気づいてたけどね♪」
三人の言い合いを黙って聞いていた及川さんが、ニヤニヤピースしながらとんでもないことを言ってきた。
その言葉に眉がつり上がる。
「あ、あんた! 気付いてたなら、キスしようとすんな!!」
「いや~~、二人に俺達のラブラブなところを見せたくなってね♪
てっきり飛雄は知ってるのかと思ってた」
「忘れてなかったら、あんな恥ずかしい会話しませんでしたよ!!」
「恥ずかしいとか酷いな飛雄!!」
「本当に恥ずかしすぎる会話でしたね……」
月島のため息混じりのつっこみに、顔から火が出そうになった。
「二人のラブラブなところなら、見飽きたって言うほど見せてもらってるから、もう見せてくれなくていいです」
「そーだな……
影山、大王様、ごちそうさまでした……」
あの日向にまでため息を吐かれるなんて……
本当に恥ずかしすぎる
「それじゃあ二人とも、また明日。さようなら」
「じゃあまた明日なぁ~~」
苦笑いしながら手を振って帰っていく二人を、何も言えずに見送っていると、
及川さんが俺の手を握って歩き出した。
「俺達も帰るよ飛雄」
「ちょっと及川さん!
何また外で手なんか繋いでんすか!?
離してください!」
「ハイハイハイ♪」
俺がムキになって手を離そうとすると、及川さんは楽しそうに手を力強く握ってきて離そうとしない。
本当に恥ずかしいんですけど……
全然離してくれない及川さんに困りながらも、それでもやっぱり恋人と手を繋いでいる喜びを感じながら歩いていると
突然及川さんが立ち止まった。
「? 及川さん?」
「あのさ、ずっと言おうと思ってたんだけどね。
あのね、飛雄……決まったよ……」
な、なんだ? 決まったって……
さっきまで楽しそうに笑ってたくせに、今の及川さんは真剣な瞳で俺を真っ直ぐ見つめてくる。
及川さん、どうしたんだ?
「あのね……俺」
及川さんの次の言葉、
聞く前から、何故だか
胸騒ぎがする……
「春から、東京に行くことに決まったよ」
え? 東京?
及川さんが東京へ……行く……
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