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第234話

東京って……すごく遠いよな どれぐらい離れてるんだろう? やっぱり簡単に、直ぐには会えないよな…… 「東京の大学に行くんすね…… 及川さん、もう少しで高校卒業するんすね」 「うん…… そりゃあ及川さんもう18歳なんだから、高校も卒業するし、大学だって行くよ。 東京だから遠くなっちゃうけど……」 「そっすね……」 東京って聞いて、及川さんが遠くに行ってしまうって分かって、 寂しい…… なんて言葉じゃ足りないほど、胸がすごい苦しくなった。 「東京に行くのって、やっぱりバレーするから、ですよね?」 「もちろん!」 及川さんのハッキリとしたバレーをするという返事に嬉しさ半分、もう半分は…… 及川さんは俺と離れても寂しくねーのかな…… こんな気持ち達が心中で渦巻く。 及川さんは俺の目標だ。 憧れ、尊敬して……負けたくない 追い付き、追い越したい人 及川さんにはバレーの頂点を目指してほしくて、俺も目指してる。 だから、宮城にとどまってたら駄目だ。 東京に行かないと! 分かってるよ…… 俺達の夢は同じ。俺だって高校卒業したら東京に行くつもりだ。 分かってる、分かってるのに、こんな気持ちになるなんて…… 「飛雄、俺が東京に行くの、やっぱり寂し?」 及川さんが眉を下げ不安顔で、俺の顔を覗き込んできた。 なんだよその質問 寂しいに決まってるだろ! 寂しいから宮城にずっと居てくれなんて言ったら、あんたはそうするのかよ? でも、そんなの言うわけないし、そんなことしたら許さねぇ! だから……  「別に全然寂しくないっすよ」 「えっ!? 飛雄、及川さんが東京に行ってもへーきなの?」 「はい、平気です。 及川さん東京に行ってもバレー頑張ってください! 俺も及川さんに負けねぇーように頑張ります!!」 「バレーはもちろん頑張るよ! そんなの決まってんじゃん! でも……恋人が遠くに行っちゃうんだよ? 寂しーでしょ?」 「及川さんも東京で頑張ってるって思ったら、寂しさなんて吹き飛びますよ。 だから全然寂しくねーっす!」 「飛雄……」 精一杯の強がり 及川さんは俺の目標だから……もっともっと上へ…… 直ぐ、直ぐに追い付きますから 「頑張ってきてください!!」 「…………」 その時は笑って見送れるように、ならなくちゃな…… もっと心も強くならないと。 寂しいなんて言ってられない、今から笑顔を作る練習。 そう思って笑おうとした。 でも……笑顔をおくろうとした相手は、とても悲しそうに顔を歪めていた。 「なんなのさ……」 「え、及川さん?」 「なんで寂しくないのさ!? 東京行きは自分が決めたことだけどさ、それでもやっぱり寂しいよ! 飛雄とまたあの時みたいに離れなくちゃいけないなんて……そんなの寂しいよ! それなのに、飛雄は全然寂しくないとか酷くない?」 及川さんも同じ気持ちだったんだ。 やっぱりそうだよな。及川さんも俺と一緒で寂しいよな。 それでも、いくら心で寂しいと叫んでも、あなたの夢を奪うことはしたくない。 「いやでも、及川さんは東京に行って、バレーの頂点目指すんすよね? だったら、寂しくないっすよ! 俺も高校卒業したら東京行きますんで」 「それでもまた2年間ずっと恋人に会えないんだよ」 「2年なんてあっと言う間っすよ!」 本当は2年間なんて途轍も無く長い、あっという間なわけない。 絶対直ぐに寂しくなるって分かってるけど、そんなこと言ってられねーじゃねーか! 「あっという間なわけないじゃん!」 「あっという間です!!」 「なんなのさ、飛雄のバーーカ!!」 「バカで良いです! 及川さんは俺がどう言おうと、東京に行くんでしょ?」 「もう大学決まったし、行く、けどさ……」 「だったらそれで良い。俺は応援するだけだ! そんでゼッテー負けねぇー!」 「それで良いってなんなのさ……飛雄のバカ!!」 「それはさっき聞きました! バカで良いです!!」 なんでこんな…… この前せっかく仲直りしたのに、また喧嘩になってるじゃねーか。 こんなの嫌だ…… 俯いた俺に気付いたのか及川さんは、頭に手を当てて長いため息を吐いてから、俺の手を握ってきた。 「バカって言ってゴメン。喧嘩はやめよう。 せっかく今、飛雄の傍にいるんだもん。 笑っていたいし、飛雄の笑顔を見ていたい。 だって後もう少しで俺達、離れ離れになるんだから……」 離れ離れ…… まるで春になったらこの関係が終わるみたいに言うなよ。 でもそうなってほしくないから、そうならないようにこの文句は口にしないようにする。 「そうですね……俺も及川さんの笑った顔ずっと見ていたいんで……」 そう言って、繋がれた手を握り返す。 あったかい……離したくないこの体温 傍にいたいのに…… 同い年だったら、ずっと一緒にいられたのかな…… 「俺はただお前に、寂しいって言ってもらいたかっただけ。 ただ、それだけだよ……」 歩き出した及川さんが、呟いた言葉。 それに返事が出来なかった。 言えない……だって…… 「及川さんは俺の目標だから…… 頑張ってきてください」 「……うん…」 愛しい人……ずっと見ていたい

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