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第235話
及川side
あの2年間の苦しみがある。
俺がどれだけ飛雄のことを想い続けてきたか、あの時お前は聞いていたはずなのに。
飛雄に寂しいと言われたからって、進路は変えられないけど……
それでも、俺が東京に行くことに、少しでも寂しいと思ってほしかった。
俺とお前は同じ気持ちだって思いたかった。
だから、あの時泣いてくれたんじゃなかったのか?
宮城と東京……
すんごい離れてるんだよ?
会いたいって思っても、そう簡単に会うことなんて出来ないんだよ。
分かってんの?
お前は俺と離れても、本当に寂しくないの?
「影山だって、寂しいと思ってるに決まってんだろーが! それぐらい気付いてやれよ!」
嘆いてた俺を、岩ちゃんが叱り飛ばす。
ちょっと強くなったと思ってたのにまたそれかよって、頭を抱えらせてしまった。
だって仕方ないじゃん……飛雄と離れたくないんだもん!
カッコ良く強くいようって思っても、弱い自分が出てきてしまったんだから。
あの時の俺は弱かった。そして今も……
「俺は、飛雄が傍にいないとダメみたいだ……」
「でも……東京へ行くのはもう決定なんだろ?」
「……うん。俺はもっともっと上へ行かないといけないんだよ。
夢のために……
そして、飛雄にずっと俺のこと見続けてもらうために。立ち止まってなんていられない」
「それは……影山もそう願っているから、だからとめなかった。寂しいって言えなかったんだ……
影山らしいじゃねーか。
あいつのこと好きならさ、気持ち分かってやれよ。
優しさに気付けよ」
「分かってるよ。分かってるから辛いんじゃん……」
行かないで! 寂しいよ!!
なんて泣いてすがり付くみたいな、女がするようなことを飛雄がするわけないし。
決定したことを覆すことなんて出来ないし、してほしくないと思ってるんだよね。
だから、本音を言わないし、強がりを見せる。
本当は分かってるんだよ俺だって!
分かってるからこそ、苦しくて
これは飛雄の優しさだって、気付いてるけど……好きだからさ、それに気付かないふりがしたいんだよ……
傍にずっといたいんだよ
「で、そんなアホ面なまま東京へ行くなんて、バカなこと言わねーよな? 影山とちゃんと話しろよ?
お前は悩みを抱えたまま、器用に動ける奴じゃねーだろ?
そんまま東京に行ったら、追い掛けて引っ付かんで、ぶん殴ってやる!!」
「コッワッ!! 岩ちゃん怖いよぉー!
岩ちゃんは東京じゃなくて、宮城に残るんだよね?」
「おお」
「寂しくなるな……」
「俺は別に寂しくねーけどな」
「ヒドイ!」
大親友の岩ちゃんは宮城の大学に、そして俺は東京。
飛雄とも離れちゃう……
大親友と恋人と離れるのはすごく辛すぎる。
でも、東京へ行くことで、夢の舞台へと確実に近付けるし、それに正月とかお盆とかは帰るつもりだし、ずっと離れ離れってわけじゃないけどさ……
「岩ちゃん……飛雄がさ、悪い奴とかに捕まらないように、ちゃんと見守っててあげてね……俺はずっと傍にいてあげられないから。
あいつおバカだから心配なんだよ」
「は? なんで俺がんなことしねーといけねーんだよ?
影山はガキじゃねーんだから、見守る必要ねーだろ?」
「そ、そーだけどさ!
飛雄ならあり得ないことだと思うけど……
ホラ、悪い奴が飛雄に手を出してきて、飛雄はおバカだからその罠に引っ掛かって、浮気の方向へとズルズルと……」
「いや、浮気すんのはオメーの方だろーが?」
「俺はこんなにも飛雄を愛してるんだよ!
浮気なんて絶対しないしっ!!」
「だったら、お前がちゃんと浮気されねーように、しっかりと影山を捕まえてればいーだろーが?」
「だから、東京に行くと飛雄のこと守れないじゃん──イ゙っグアッハッッ!!」
そう俺がウジウジしていると、岩ちゃんが俺の頭を思いっきり殴ってきた。
「ウゼー、マジウザクソ川だなオメーは! ずっと影山にくっついて捕まえてるんじゃなくて、体は離れてても影山の心は離さず捕まえていられるように努力しろってことだよ!!
東京に行く前に、男なら好きな奴の為に必死に踠いてみせろって言ってんだよクソが!
分かったらさっさと行けクソボゲェ!!」
「わ、分かってるよ!!」
俺は岩ちゃんに蹴り飛ばされて、やっと走り出した。
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