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第260話
消えない、消せれない
深い愛のしるしを、愛しい身体に刻みつけたい……
「及川さん……俺もあなたの体に、キスマークつけたいです」
ゆっくりと身体を起こして、及川さんの方へ向き直る。
真っ直ぐ見つめてそう言うと、彼は少し驚いた表情をしながらも、優しく目を細めて口角を上げた。
「飛雄もつけてくれるの?」
「俺だって及川さんにいっぱいつけたいです!
……ダメっすか?」
「どうしてそんなこと聞くの?
わざわざ聞かなくても、お前は俺の恋人でしょ? つけて良いに決まってんじゃん。
だから俺もいっぱいつけたし。
俺の体はお前の好きにして良いんだよ……」
色っぽい笑みを浮かべながら及川さんは、俺を迎え入れようと両手を広げた。
胸が高鳴るのを感じながら背中へと腕を回し、彼の逞しい胸に顔を埋める。
胸にキスをして、それから……あれ? どうすれば良いんだ?
「…………あの……及川さん……」
「ん? 何、つけないの?」
「いや、あの……えっと…キスマークって、どーやってつけるんすか??」
「……は?」
間抜けな声を出して眉を下げて笑った及川さんに、恥ずかしさで思わずムッとしてしまう。
「だって今まで一度もつけたことねーし、及川さんと同じようにしようと思ったけど、どうすればいいのか分かんねーんだから仕方ねーだろ!」
「あははっゴメン、ゴメンってぇ~
そーだよね、つけたことないもんね。及川さんとしか付き合ったことないから、知らなくて当然だよね~」
なんて笑いながらも、及川さんはとても嬉しそうだった。
でもそれと反対に、俺は複雑な気持ちになった。
「……及川さんは色んな人と付き合ったことあるから、だからつけ方知ってて当然なんすね……
俺の知らない誰かに教えてもらったんすか……?」
「ふふ……何しょんぼりしてんの?
確かに何人かと付き合ったことはあるけど、キスマークつけたいなって、独占したいって思った人は飛雄だけだよ。
ああ言ったけど、他の人にはつけたことないし」
「えっ……」
他の人にはつけたことない
独占、したい……俺だけを…
その言葉だけでさっきまでのモヤモヤはすぐ吹き飛び、舞い上がって自然と唇が綻ぶ。
単純だな俺……いつも及川さんの言葉一つで、簡単に落ち込んだり喜んだりする。
そんな俺に及川さんは嬉しそうな笑顔で、俺には似合わない言葉を囁いてくる。
「飛雄、嬉しそうだね……かわい……」
「う、うっせーっ! あんたの方が嬉しそうだし、可愛いだろ!」
「嬉しそうは認めるけど、可愛さは飛雄には負けるよぉ~」
「だから俺に可愛いはないって……
て、てゆーか、じゃあどこでキスマークのつけ方知ったんすか?」
「飛雄につけたいなぁ~って思って、スマホで調べたんだよ。
自分の二の腕とかにつけて、練習したりしてさ~
及川さんってすんごい健気でしょ?」
えっ! 俺につけたいがために、わざわざ調べて練習を!?
自分の二の腕に頑張ってキスマークをつけている及川さんの姿を想像して、勝手に口角が上がっていき、ニヤニヤが止まらなくなった。
俺につけるためにあの及川さんが、練習までしてくれたんだ。
俺も練習して、及川さんにつけてあげたい。
「及川さん、キスマークのつけ方教えてください!
俺も練習して、絶対につけられるようになりますから!
だから、教えてください!!」
ガバッと頭を下げると、それを優しく撫でられて、ぎゅうっと抱き込まれた。
「練習なんかいらない。そんなの待てないよ。
今すぐつけて。
ほらまずは、首筋にキスして」
「首筋……こんな誰かに見られるようなところにつけてもいいんすか?」
「飛雄のなら良いに決まってんじゃん。ほら早くキスしてよ」
「……ッス」
俺のなら……その言葉に口がムズムズするのを止められないまま、言われた通り首筋にキスをする。
「そーそー上手。そのまま舌を出して、そこを舐めてごらん」
「はい……ん……」
「ふふっ……一回でやめちゃぁダメだよ。
もっと連続で、いっぱい舐めてよ」
「…ん…んん……」
「ハハハっ、くすぐったい。
ペロペロ舐めて、なんか犬みたいで可愛い……」
「犬じゃねーすっ!!」
「俺の可愛いワンちゃんっ♡」
「ワンちゃんって言うなボゲェッ!」
「こーらっ! 年上にそんな口の聞き方しないの~躾がたりなかったかなぁ~?」
「躾なんていらねー……ですコラ…」
「お口が悪~い。ほら、休んでないで続けて」
「ゔ、うぬん………ん、んぅ…」
「しっかり濡らしたら次は、口をすぼめて肌に密着させて」
「すぼめる……? ん? こうか??」
「ふふふ……口ムズムズさせて可愛いね本当に……
唇をね、う、の形にするんだよ」
「う?」
こうですか?と訊ねるように唇をう~~ってして、顔を上げて彼を見つめると、楽しそうに微笑んだ彼がうっ♡と声を出しながらキスしてきた。
「ふぇ!?」
「タコさん口が可愛くて、思わずキスしちゃった♡」
「ま、真面目に教えてください!!」
「うへへ~~顔真っ赤ぁ~可愛い~♡」
「可愛い可愛い言い過ぎです!」
「お前が可愛すぎるのがいけないんだよ~
じゃあワンちゃん、そのタコさん口を肌にくっつけて~」
「だからワンちゃんじゃっ……ブッ!」
文句を言おうとしたが後頭部を掴まれて、首筋に唇が当たるように無理矢理引き寄せられ、口を封じられる。
「はいはい、良いから俺の首に唇くっ付けな~」
「んぐぅっ……」
ワンちゃんワンちゃん言うんなら、
こうだ! ボゲェッ!
俺は口をガパァッと大きく開けて、首筋に思いっきり噛み付いてやった。
「イッテェッ!!」
「犬なんで、噛みついてやりました」
そう言いながらも、その痛みに涙目になってしまった彼に、罪悪感が生まれる。
くっきりと浮かぶ歯形が痛々しい。
ヤベェ……やりすぎたか?
恐る恐る彼の顔色を窺うと、目尻を拭いながらそれでも笑っていた。
「ハハハ……今日は噛まれてばっかだね。
おちんちんも噛んでくれたしね」
「あっ! す、すんません!!
痛くないっすか? って、痛いに決まってるか!
すんません!」
「謝らないでよ……喜びとか痛みとか、
飛雄がくれた物全部、全てが俺にとっては宝物なんだからさ」
なんだよ、さっきまでふざけて意地悪なことばっか言ってたくせに、突然こんな優しく微笑んで、
宝物とか嬉しくなる言葉……
ズリィ、反則だ……
「ねぇ、もっと噛んでよ。キスマークもいっぱいつけてよ。
俺の体に深く、一生消えない傷をいっぱいつけて。
忘れること出来ないくらいの、痛みをちょうだい……」
「はい……」
教えてもらったことを頭の中に思い浮かべて
噛んだのとは反対側の首筋に、そっと舌を這わした。
何度もそこに舌を滑らせてから、すぼめた唇を押し当てた。
「唇をしっかり肌に密着させて、口の中を真空にするように、強く吸い付くんだよ」
「ん、んっ!」
言われた通り俺は、彼の首筋に思いっきり強く吸い付いた。
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