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第261話
唇から漏れ出た、淫靡な音
頭の中で響いて
彼の唇からは、ふふ……と艶かしい笑みが溢れた
ちゃんとキレイについただろうか
唇を離して、吸い付いた首筋に目線を移す。
そこは赤くはなっていたが、及川さんがつけてくれたのとは違っていた。
「上手くつかねー……及川さんのと違う……」
「ハハ……くすぐったかったから、ついてないと思った。
もっとさ、唇ギューってくっ付けて、思いっきり吸ってみなよ」
「う、ウス……」
強く吸い付いたつもりだったのに……これよりも、もっともっと強くしないと
少し赤くなった肌にもう一度唇を寄せて、自分の思う本気の力で吸い付いた。
今度こそついたよな?
確かめようと唇を離した俺の頭を、及川さんが逃がさないと言わんばかりに強く抱き締めてきた。
「ぶッ!」
「下手くそ……」
離れかけていた唇を、また首筋に押し当てる形にさせられた。
「もっと、もっと吸い付いて……」
静かな囁くような声に誘われ、身体がゾクッと震えた。
言われた通りにヂューーっと吸い付いていると、彼が更に甘い声で囁く。
「連続で……チュッチュって吸って」
「ん、んむ、チュッ、チュパッ……」
「優しく吸ったり、強く吸ったりしてみて……」
「チュッ、ヂュチュッ……」
何度も何度も、吸っては肌に舌を這わせ、また吸い付く……
呼吸するのも忘れて、ただ彼の囁きに合わせて吸い続ける。
やわらかい笑い声と一緒に、フワリと頭を撫でられて、思い出したように呼吸しようとした。
でも唇が塞がってるから上手く息を吸えなくて、必死に鼻で呼吸しようともがく。
苦しさに肩を上下させた俺に、及川さんは優しく笑って腕の力を抜いた。
「息吸うのも下手くそだね」
「はぁ、はぁ……す、すんません……」
謝りながら、吸い続けたとこに目線を向ける。
そこには、俺が想像していたキスマークとははるかに掛け離れた、大きな痛々しそうな痣が存在を主張していた。
「や、ヤッベェ! スゲーデケェのがついちまった!!
これヤバいっすよね及川さんっ!?
こんなの服で隠せねーし、すぐ皆にバレちまう!」
慌てて彼の首筋についたでっかいキスマークを、消えるわけないのに指で思いっきり擦った。
それでも及川さんは俺の手首を掴んで、慌てることなく微笑んでいる。
「そんなに擦ったら、もっとおっきくなっちゃうかもよ?
まぁ、俺はそれでも構わないんだけどね」
掴まれた手を引かれ、寝転んだ彼の上に覆い被さる形になった。
「これだけじゃ足りない。
他のとこ、もっと大きいのいっぱいつけて」
「もっと、大きいの……? 部活で着替える時とか、皆に見られますよ?」
「見られたいの俺は。このキスマークは飛雄につけてもらったんだよって、愛する恋人が一生懸命つけてくれたんだよって、皆に見せびらかしたいの!」
「……っ」
愛する恋人、俺がつけたキスマークを皆に見せびらかしたい?
なんだそれ……そんなのスゲー恥ずかしくて、それよりもっと嬉しくて
俺もそこにいて、
及川さんの身体についてるキスマークは俺がつけたんだ!
及川さんの恋人は俺だ!
誰一人として及川さんには触らせない、俺だけが触れていいんだ。
及川さんは俺だけのものだ!!
って、皆にそう宣言してやりたい
「一生消えない……大きくて深いキスマーク、いっぱいつけて、飛雄……」
「……は、ハイっ!!」
勢い良く頷いて、彼の胸元に噛み付くように唇を寄せた。
そんな俺が可笑しかったのか、彼は小さく声を漏らして笑って、俺の首に腕を回して、ギューーっと抱き付いてきた。
チラッと目線を上に上げて、彼の様子を窺うと、ものすごく嬉しそうに頬を赤らめて笑っていた。
そんな笑顔に、胸を強く鷲掴みされた。
いや……そんなのとっくにか……
寄せた唇で彼の肌をなぞり、そっと舌で湿らす。
さっきより大きいのをつけたいけど、及川さんみたいに綺麗なのもつけたい。
いろんなキスマークで、及川さんの身体を埋め尽くしてあげたい。
「は、……及川さん……ん、ん…チュッ、チュルッ」
さっき首筋につけた時のことを思い出しながら、胸元に何度も吸い付く。
強く吸い付いたり、優しく吸ったり……
どんなのがついたかな? 綺麗についたか?
さっきより、少し小さいキスマークがついてて、及川さんのキスマークに一歩近付いたかなと、口が綻ぶ。
もっといっぱい、色んな形のをつけてあげたい。
次はさっきよりもっと大きいのを……
無我夢中で彼の胸元、肩やお腹に、唇の角度を変えながら吸い付く。
自分の唇から漏れる厭らしい音も、
いろんなところに吸い付く度に、及川さんから漏れる甘い吐息、全てが
身体を熱く、敏感にさせていく
「ん、チュッ、ジュジュッ、んふ……」
吸い付く度、音が漏れる度に、
腰が無意識に、淫らに揺れてしまっていた。
「飛雄……腰、ピクピク揺れてる……
俺の身体にいっぱいキスマークつけて、興奮したんだね」
その言葉にドキッと胸が跳ねた。
図星だよ……だって…
「だって、大好きな人の身体が俺のキスマークでいっぱいになっていくのに、こんなの興奮するに決まってんだろ!」
そう声を大にした途端、彼が俺の中心へと手を伸ばそうとしてきた。
慌てて身を引いて、彼の手を掴む。
「及川さんっ!!」
「飛雄はキスマークつけててよ」
「そんな触られたら!」
「興奮してくれてるんでしょ?
だったらもっと興奮させて、俺でいっぱいにして、気持ち良くしてあげたいじゃん!」
怒鳴るように捲し立て彼は、俺の立ち上がりかけている昂りへとまた手を伸ばす。
「や、止めろって言ってんだろ!!」
伸ばされた手を捕まえて、引き寄せ、手の甲に思いっきり吸い付いた。
「……っ、飛雄!」
「触られたら、気持ち良くされたら、キスマークつけられなくなる!
もっともっと、いっぱいつけたいんだよ!
伸びてる場合じゃねぇ!
一生消えない、深いキスマークをもっといっぱいつけさせてくれよ!」
「飛雄……」
声を張り上げ、掴んでいた手を強引に引っ張り、彼の身体をうつ伏せにさせる。
「背中にもつけさせてください……」
いや、例えダメだと言われても、もう俺は止まらない。
及川さんの身体隅々まで、俺で埋め尽くしたいんだ。
「飛雄、うん、うん。
いっぱい、いっぱいもっとつけて……いっぱい…」
及川さんの声は、少し震えていた。
「飛雄……飛雄、好き、だよ」
好き。
その一言で、俺の視界が一気に滲んでいく。
「及川、さ、んっ……!」
「飛雄……す、き……」
無我夢中で、
背中全体、隈無く、唇、舌を這わせ
吸い上げていく
尻も足も全て
中心から、欲望が滴っていることに気づいたけど、そんなの構ってられない。
唇の感覚がなくなってきて、苦しくなって、
それでも動かした
一心不乱に何度も
彼の吐息、汗、体温……存在全てが
俺の身体を揺り動かした
そう、それと同じように、俺も俺の全てで、
及川さんの心を呑み込み、埋め尽くしたい
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