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【日常】ふと気付いた事(2)
どのくらい時間がたったのだろう。眠っていたらしくて、気づいたら部屋の中には柔らかな明かりが灯っていた。そして側でユーリスが、ずっと俺の頭を撫でてくれていた。
「大丈夫か、マコト」
「ユーリス…」
「体調を崩したと聞いたが…違う事だね」
俺の顔を見て、ユーリスは気づいたみたいだった。俺が悩んでいる事に。
「マコト」
「ユーリス」
抱きついて、抱きしめられて少しだけ落ち着く。いや、奥の方ではズキズキしてる。
でも、考えたんだ。俺、産める間に沢山産まないと。
俺のスキルを子供達も継いでいる。この子達が将来、竜人族をきっと救ってくれる。それなら俺に残せる事は沢山子供産んで、より沢山の希望を繋ぐ事なんだ。
俺は抱きついて、キスをした。驚いた顔のユーリスは、それでも受け入れてくれる。泣きながらキスなんて、本当に迷惑だと思うけれど。
「ユーリス、俺、もっと子供欲しい」
「マコト?」
「もっと産むから、だから…」
「マコト!」
ユーリスの手が俺を引き留めて、次に強く抱きしめてくれる。俺、やっぱりこの腕が好きだ。この人が好きだ。家族が好きだ…。
「何が不安なんだ。言って貰わないと分からない。それは、沢山子供がいるのは俺も嬉しい。でも、それはマコトの負担でもある。スキルが高いのはあるだろうが、それだってまたく負担にならないわけじゃない。それに俺は、君を子供を産むための道具にしたくはない」
強く確かに言ってくれる言葉が、俺をどんどん弱くする。思った事も全部決壊して、俺は子供みたいに声を上げて泣いた。
厚い胸が俺の全部を受け止めてくれる。逞しい腕が俺を離さないようにしてくれる。俺は、この人の前では沢山弱くなれる。泣いてもいいんだ、ユーリスの前では。
「マコト、話してくれ」
「俺…ユーリスや子供達を置いて先に死ぬから…だからその前に沢山産んで…それどころかいつまで健康でいられるかも…」
「? 何の話をしているんだ?」
「寿命の話だよぉ!」
首を傾げたユーリスに訴えるように言った。わかんない顔をしてるから、もう訴えるしかなかった。
きょとんとしたユーリスは、次には俺を抱き上げて鏡の前につれていく。鏡の前に立たされた俺は、ユーリスが何を言いたいか分からなかった。
「老いて見えるか?」
「え?」
「俺と出会った時と、マコトは変わらないだろ?」
…そういえば、そんな気もする。でも、22と35だ。そんなに変わって…見えるはずだ。
「え! え!! なんで!」
「結婚式を挙げて、神の前で祈って、祝福を貰っただろ?」
俺はコクコクと頷いた。確かに司祭さんに結婚式をしてもらった。神の祝福を受けた。
「あれはただのお披露目じゃない。ちゃんとした儀式と、神の祝福なんだ」
「どういうこと?」
「結婚した夫婦の寿命は同じになる。神が結ばれる二人に祝福を与えるんだ。指輪、してるだろ?」
俺は左手の薬指を見る。俺の手には指輪があって、今も輝いている。
「神の祝福は指輪に宿り、夫婦は同じ時を生きられるんだ。だから外れない」
「つまり、それって…」
俺はユーリスと同じ時間を生きられる?
「老いたりもしない?」
「しない」
「俺、シーグル達の成人した姿とか、見られる?」
「結婚式も、もしかしたら孫も抱けるかもしれないな」
俺の目に、違う涙が伝った。安心した。そして、この世界の神様に死ぬほど感謝した。
ユーリスは俺の体を抱きしめて、ポンポンと背中を叩いてくれる。温かく微笑んで、ずっとそうしてくれている。
「俺、ユーリスとずっと一緒にいたい」
「勿論だ」
「もっと沢山、一緒にいられるんだよね」
「あぁ」
俺は思いきり笑った。満面の笑顔の見本ができるくらい笑っていた。そんな俺に、ユーリスはキスをする。労るように、沢山の好きを詰め込んだみたいなキスに、俺は欲情ではない愛情を感じて微笑んだ。
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