13 / 162

【イカレ竜】ランセルの奥様(1)

 私の奥様グラースさんは、それは美しい狐族です。背中の中程まである銀の髪に、耳の先端だけがほんの少し黒い毛の見える耳、ふさふさの大きな尻尾が素敵です。  一目惚れでした。もう、しばらく放心したくらいには理想的でした。 「理想的です! こんなに…こんなに素敵な人に私は未だ出会った事がありません! 結婚してください! そして私の子を産んでください!」  出会って数分後には愛を囁きました。その時の蔑むような視線、たまりません。まるでゴミかチリをみるような目で見られ、なんだか違う扉が開いた感じでした。  勿論奥様限定です。他の奴が同じような事をしたら塵にします。躊躇いません。  一緒に仕事をして、プライドが高い人かと思えばそうではなくて、使命感が強くて責任感が強くて…ちょっと不器用なんだと知りました。  獣人の国は少し複雑です。種族による職業の縛りはない、というのは表面的なもの。特に軍部などの閉鎖的な階級社会においては肉食系種族が上に立つのが当然。  そこに若いグラースさんは異端で、それ故に苦しんでいるようでした。  だからこそ攫いました。様々な権力やコネを使ってでも欲しいと思っていたので、これ幸いと攫ったのです。そして、めくるめく素敵な同棲生活(拉致監禁ともいう)が始まったのです。  幸せでしたが、嫌われているのも分かっていました。でも少しずつ打ち解けてくれて…私の身の上を話さない事はいけなかったのだと思い、改めました。  事件があって、何故かもの凄く積極的に受け入れてくれて、たまらない気持ちでした。今でもあの熱烈な愛の言葉を覚えています。 「お前の子供産んでやる。そのかわり、孕むまでやれ」  なんて熱い言葉でしょう! なんて胸躍る言葉でしょう! そして、拒まれていたはずが何故こうなったかこの時は分からなくて、呆けてしまった私自身を殴り倒したいです。  何にしてもこうして結ばれ、可愛い息子が生まれました。  息子のアンテロはグラースさんの特性を引き継いで銀の髪ですが、竜人です。  グラースさんの特殊な血を受け継いでいる息子は、きっと将来的に私よりも魔力の高い竜人となるでしょう。期待できます。そして天使です。  グラースさんは「お前はもう少し父親らしくしろ」と言いますが、これでも父親のつもりです。表に現れづらいのと、それ以上に奥様ラブなだけです。  今は幼馴染みのユーリスの息子、シーグルと共にスクスクと成長しています。 「おい、ランセル」  それにしても、新しく産まれた息子も少し大きくなってきました。本当に可愛いものです。そして2人も産んでくれると思わなかったので、嬉しいかぎりです。  何だかんだで私は愛されているのですね。 「おい、ランセル!」  下の息子がもう少し育ったら、もう一人くらい欲しいですね。ユーリスの所はすでに3人。あちらの奥方のマコトさんに特殊なスキルがあるからですが、こちらも根性で2人です。まるで奇跡ですから、このままなら…。

ともだちにシェアしよう!