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【イカレ竜】ランセルの奥様(2)
ボッ!
突然軍服の裾が焼けて、私は顔を上げた。そこには同じ軍服を着た鬼の形相の奥様、グラースさんが腕を組んでいます。とりあえず炎は消火。
「おい、トカゲ」
ゴミ屑を見るような蔑みの視線が私を見ています。そして、竜人族にとって最も侮辱的な『トカゲ』という言葉を容赦なく浴びせるのです。うん、素敵。
「すみません、少し考え事をしていて」
「仕事の考え事じゃないだろ」
「おや、どうしてそのような事を思うのですか? ちゃんと真面目にお仕事しておりますよ?」
「てめぇの顔見てれば分かるんだよ」
流石です。側近のハリスですら私の考えまでは読めません。この方はそこを読むのです。
「何かご用でしたか?」
「あぁ。アンテロが今度シーグルの家に泊まり込みで行きたいと言っていた。だが、なんだか様子がおかしい。丁度お前の知り合いのロディとリュミエールが国外に行くタイミングだ」
「おや?」
これは何やら秘密の予感。
知り合い…というか、弟分のような赤竜族のロディと青竜族のリュミエールは、最近冒険者を始めたらしい。ユーリスのロマンを追い求めたのでしょうが、あれは幸運としか言えない出会いです。そこらに転がっているような類いの話ではありません。
「どうする?」
「そうですね。行かせても良いとは思いますが」
息子アンテロは14歳、ユーリスの息子も12歳。そろそろ外の世界に興味が出てくる頃でしょう。好奇心を殺すのも今後を考えると適切とは思えません。
グラースさんは、少し心配そうです。言葉はきついけれど、とても優しいのです。
「心配ですか?」
「…べつに、いいんじゃないのか?」
言いながら、尻尾が下がったままです。素直ではありません。
「ロシュはおっちょこちょいですが、強いですよ。それにロシュのフォローをするように、リュミエールは冷静です。あまり長い旅でないなら、許可してもいいと思いますが」
「…そうか」
何だかんだで母親です、息子が可愛くて仕方がないのです。
私は少し考えて、ちょっと笑いました。
「心配なら、貴方が鍛えてはいかがですか?」
「ん?」
「アンテロに体術を教えてはいかがでしょう?」
「俺がか!」
驚いた顔をして、グラースさんが身を乗り出してくるその唇にキスをしたら…また服が燃えました。再生魔法を覚えておいて本当によかった。
「何する」
「え? 愛情表現ですよ?」
「いらん」
「もぉ、素直じゃないんですから」
言うと、すっごく嫌な顔をされます。ふふっ、素敵。慌てるんじゃなくて、一段低い声で脅すように言うんですから、心得てますね。
「アンテロが心配なら、鍛えるのも親の役目ですよ。グラースさんの体術は我が軍でもトップクラスですから、きっと役立ちますよ」
「加減が分からない。それに、一度スイッチが入ると軍人相手と同じにやってしまう」
あっ、耳がペタンとしました。息子に嫌われるのが怖いんですね。これで子煩悩なグラースさんですから。
でも、そんなの平気でしょう。アンテロは母様命の可愛い息子です。それに、理解があります。厳しい事も自分の為を思っているのだと分かれば、嫌ったりはしないのに。
「大丈夫ですよ、貴方の息子です。根性ありますから、教えてあげるといいですよ。不安なら、時間を短く区切るといいんですよ。無理のない程度にね。そして終わったら、一緒にお茶でもすれば平気です」
「短い時間じゃ訓練にならないだろ。数時間はいる」
「それ、間違いなく軍部の訓練レベルでやる気じゃないですか」
厳しくするのが怖いと言いながらこれです。本当に面白い。
「一時間程度にしてあげれば、きっと平気です。それで、外出の許可を出してあげましょう」
「…わかった」
どうやら折れたらしいグラースさんを見て、私は笑う。本当に、いつまでたっても魅力的で困ります。
「ねぇ、奥様」
「ん?」
「3人目、頑張れば出来ると思いませんか?」
「はぁ?!」
素っ頓狂な声を上げたグラースさんが少し引いている。私は立ち上がって迫っていって…炎出してもダメですよ。ふふっ。
「ん! んっ、ふっ…」
顎を捕らえて深く口づけていけば、鋭い瞳が熱を帯びて薄らと潤んでいく。なんて色っぽい。この顔がたまらないのです。欲情する。
「お前…」
「ねぇ、欲しいです。また、産んでもらえませんかね?」
耳元で囁きかけて、強い反発は帰ってこない。これで子供が好きだから、マコトさんを少し羨んでいるのは知っています。
これは3人目、出来る日もそう遠くない。お約束通り孕むまで。何回でも何十回でも抱きますから。
そんな事を思って、私はもう一度愛しい奥様に口づけをした。
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