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【イカレ竜・出産】アンテロ誕生裏話(1)

 妊娠7ヶ月を過ぎた朝、ふと走った痛みに俺はマジマジと自分の腹を見て撫でた。 「どうしましたか?」  朝食も終わり、ゆったりとした時間を過ごしていた俺の側にはランセルとハリスがいる。その両名を見ながら、俺は本能的に分かる事を口にした。 「産まれるな」 「「……えぇ!!」」  産む側が焦りもしないってのに、何もしない側が大パニックってのはどうなんだ。  溜息をつく間も腹部に走る痛みは徐々に強くなる。それでも耐えられないわけではなく、俺はいたって冷静だ。  そもそも獣人というのは本能的にこうしたことを知る種族だ。だいたいが放っておいても産まれてくる。 「お前ら落ち着け」  だがランセルはオロオロしたかと思えば何を思ったのか俺の手を握ってキリッとした顔をした。 「大丈夫です、グラースさん」 「意味が分からん!」  こうしている間にも痛みの感覚が縮まり、徐々に痛まない時間がなくなってくるというのに。 「お前ら落ち着け! まずハリス、食い物持ってこい」 「この期に及んで食い物っすか!」 「馬鹿、食べられる内に少し食べておかないと体力持たない。それとランセル、お前は綺麗なシーツをできるだけ沢山と、ぬるま湯、軍で使うテント持ってこい」 「どうしてテント!」 「ベッドの上で産めねぇだろうが!」  血みどろにされたいのかアホが。  それでもハリスはやはり早い。あいつの従属属性はこういう時に実に役立つ。バタバタと動き出したかと思えば直ぐに果物とパンと水をたっぷり持ってきた。  しかも小さな皿にチョコレートを数粒乗せてきた。良く出来た奴だ。 「あの、これでいいっすか?」 「上出来だ」  ふわっと笑い、ハリスの頭を撫でてやると照れたように赤くなり、また動き出す。そしてあれよあれよと、ランセルに言いつけたものまで揃えてきた。 「おい、役立たず」 「だって、放っておけないですし」 「放っておいていい! 病気じゃないんだぞ」  むしろ産まれてこない方が大問題だろうが。  そうする内に陣痛は進んで腰骨が軋むように痛み出したが、俺はそもそもが大きい。予想よりはずっと楽だ。 「ランセル」 「はい」 「産むのは俺一人でいい。お前は医者を連れてきて産まれた子供の診察が出来るようにしておけ」 「私も側にいますよ!」 「何も出来ない奴が側でウロチョロするのは目障りだ」  言えばもの凄く傷ついた顔をしたが、本当の事だ。コイツがいたってイライラするばかりで何の役にも立ちはしない。  渋々出て行ったのを見て、俺は同じくオドオドするハリスを呼んだ。 「ハリス」 「はい?」 「今のうちに結界かけてあいつが入れないようにしてくれ」 「えぇ!」  驚いたみたいだが、俺はここを譲らない。 「やらないなら俺がやる」 「えっ、でもどうして…。ランセル様が側にいるの嫌なんすか?」 「バーカ。あいつに弱みなんか見せたくないんだよ」  これは俺のプライドだ。あいつに弱い姿なんて見せたくない。声すら聞かせたくない。青い顔をするあいつの顔を見るのもごめんだ。縋るかもしれない俺の醜態を晒すのなんて絶対に嫌だ。 「音も遮断しろ。そしてお前が受けろよ」 「えぇ!」 「難しくないし、簡単だ。昔俺もやったが、案外なんでもない。それに…」  ズズッと降りてくる感覚がある。まったく、せっかちだ。誰に似たんだ… 「そろそろ、まずそうだしな…」  僅かに脂汗が浮かぶが、俺はフッと笑みを浮かべた。

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