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【日常】エッツェル留学記2(2)

 どうしよう、なんだか眠れない…。  その夜、僕は一人のベッドで小さくなっていた。冬ではないのに、寒くて眠れない。それに、頭の中では幸せそうなランス様とベリアンス様の姿が浮かんでいる。  僕の理想。僕の欲しかったもの…。  小さな時に暴漢に襲われそうになった僕を助けてくれたガロン様。見つめてくれる優しい視線に、僕は恋をした。あの優しい視線が見つめてくれたらどんなに嬉しいだろう。甘えていたくなる。  でも、その視線も愛も全部がハロルド様のもの。どこか抜けたようなハロルド様は実は凄いって、僕も知っている。我慢強くて、誰にでも明るく優しくて。僕が泣きそうな時にも気付いて、慰めてくれた。  二人が好きだ。ガロン様を愛していて、ハロルド様に憧れて。でもそんな二人を悲しませてしまったのも、僕なんだ。  もう、会えないのだろうか。自分の事に一生懸命になりすぎて、他の人の気持ちに気付いてあげられなかったから、僕は今ここにいて、謝る事すら出来ずにいる。  その時不意に、部屋のドアが開いた。  誰か分からなくて体を起こしたら、そこにはグランが立っていた。 「どうしたの?」 「眠れないから、まだ起きているかと思って」  そんなの、部屋に灯りがついていなければ寝てるって思うじゃん。  グランは近づいてきて、当然の様に僕の隣に潜り込む。驚いて睨んでも知らん顔。そのまま、昨日と同じく僕を抱きしめてしまう。 「おやすみ」 「いや、おやすみって!」  焦って言っても効果なし。あっという間に寝てしまった。  こいつ本当に眠れなかったのか?  なんとなく、気遣ってくれたように思う。不安そうな僕の視線をグランは感じていたっぽい。  それに、不思議なんだ。こうしてグランが抱きしめてくれると、僕も眠れる。気持ちが落ち着いて、温かくて、そのうち余計な事も考えなくなってくる。  安らげる場所をくれるグランに寄り添って、僕はこの温もりを手放せなくなりそうで怖かった。

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