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【日常】エッツェル留学記6(1)

 ランス様のパーティーの準備を始めた僕は、現在体中から甘い匂いをさせている。  フィナンシェやマドレーヌ、カップケーキなんかの手軽なお菓子の他に、プリンやガトーショコラなんかも作っている。全部、パーティーで振る舞う為のものだ。 「凄い数だね」  グランが呆れたり、時々匂いに顔をしかめたりしながら側にいる。やっと少し戻ってきた感じがして、僕は嬉しかったりする。 「このアパートの全員が参加だからね。でも、楽しいよ」 「…エッツェルの煮物が食べたい」  ふとそう言われて、僕はドキッとする。  最近僕がお菓子作りに没頭したり、ランス様の仕事にかかりきりになると、グランは少し不機嫌に食べたい物のリクエストをする。  お願いに弱いんだって、初めて気付いた。僕はグランのリクエストに、ほぼ100%応えてきている。 「今夜作るよ」 「肉じゃがね」 「指定!」 「うん、食べたいから」  そう、邪気のない顔で言われると文句をつけにくい。ぐっと言葉を飲み込んだ僕は、ちょっとそっぽを向いて「分かった」と返した。  グランの事が少し分からない。なんだか忙しくしているし、日中いない事も多い。なのに突然ふらっと帰ってきては、僕を抱きしめたりする。そして耳元で「可愛い俺のドラゴン」なんて、冗談みたいに甘い声で言うんだ。びっくりする。  分かっているよ、グランは僕をからかっている。実際顔を真っ赤にして腕をすり抜けると、おかしそうに笑うんだ、腹を抱えて。もう、腹が立つったらない。  なのに、嫌いになんて全然なれない。むしろそういう風にからかわない日は、なんだか物足りなくて心配になる。体調悪いんじゃないかとか、何か困ってるんじゃないかとか。  それに、こういう事は人前ではするけれど、二人の時にはしない。むしろ二人きりの時には距離ができる。僕は近づきたいのに、グランはそれを拒む感じがある。  僕はグランとの関係をどうしたらいいのか、分からなくなっていた。  何だかんだで、パーティーは盛り上がっている。屋上庭園を全て開放して行われるパーティーはとても華やかだ。  僕は改めてこのアパートの住人に紹介された。けれどもう、大半が知っている顔だ。 「エッツェル、いい顔になったねぇ。今なら誘われようかぁ?」 「ヴィー、飲み過ぎなんじゃないの?」  相変わらず軽い様子で絡んできたヴィーが、手にワインを持ってニヤリと笑う。腕が腰の辺りを嫌らしく撫でるのには、ビクッとして飛び跳ねた。 「かっわいぃ」 「もぉ、ヴィー!」 「怒ると苺みたいだよ、子猫ちゃん」 「そういうの間に合ってるからな!」 「はいはい」  あいつ、絶対僕のこと玩具だと思ってる。  それでも憎めないのが、ヴィーって奴なんだろう。 「あ、エッツェル。こんばんは」 「あぁ、レイさん!」  僕を見つけて近づいてきてくれたのは、ここの四階に住んでいるレイモンド、通称レイさん。既婚者で、側には水色の髪をした綺麗な顔立ちの人が立っている。腕にはまだ小さな子供を乗せて。 「ジェイさんも、こんばんは」 「えぇ、エッツェル。今夜のお菓子は君のだと聞いて、挨拶とお礼に来ました」 「あの、美味しいです、とても。この子もプリンが気に入ったみたいで」  この子というのはジェイさんの腕に抱かれている子供。勿論二人の子供だ。  レイさんとその子スウェーノ、通称スウェンとは庭の手入れで知り合った。最初はもの凄く遠巻きにされていたけれど、数週間もすると話しかけてくれるようになった。それからは会えば立ち話をする関係だ。 「あの、良かったら今度、プリン教えてください」 「もちろん!」  コソッと恥ずかしそうに言うレイさんはとても可愛い。ふわふわの金の巻き毛に白い羊の角がついた、大きな青い目の小柄な人なのだ。本当に、羊の獣人にも見える。  そしてレイさんはとても恥ずかしがり屋だったりする。  それでもこうして頼ってくれるのは嬉しい。僕は二つ返事でレイさんの申し出を了承した。

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