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【R18】寡黙な騎士をこの手に抱いて(5)

 王太子宮は慌ただしいのに静かになった。  俺が正式に王太子となったことで、本当に見合いを含めた会食やパーティーの誘いが多くなって正直にウザい。どいつもこいつも俺をなんだと思って見ているんだ。  なのに、屋敷の中はとても静かだ。  歩く廊下を、幼いロアールを追いかけて走って怒られた。見える中庭に座ってサンドウィッチを兄弟で食べていた。庭の手入れをしようとして、結局邪魔しかしてなかった。  そんな残像が今も見えるような屋敷にいるのは、結局俺だけになった。  ロアールは帰って来るが、半分はシエルの所だ。エヴァは帰ってこない。エッツェルについては国すらも違う。唯一いるだろうと思ったフランシェは王城に住む事になった。  俺はここに、一人でいる。家族が切れたわけじゃないし、両親や兄弟に会いに行こうと思えば数時間だ。だが、なにかが寂しいと思えてくる。  まぁ、こんな事はおそらくすぐに忘れるのだろう。今の生活に慣れてしまえば、それまでの事だ。  思うのに、何かが引っかかる。そんな具合の悪さをここ1ヶ月近く感じ続けている。  積極性というものは悪い事じゃない。だが、あまりに過ぎるとがっついて卑しく見える。  今日はパーティーに呼ばれた。懇意にしている商家の娘の誕生日パーティーだ。ツテを維持するのにはこうしたものも嫌がらずに出なければならない。  だが実際は理由でしかない。その娘は俺の隣にべったりとはべり、自分の事をしきりにアピールし、体を俺に触れさせてきた。  俺は内心、だいぶ呆れた。これでは商売女もいいところだ。そんなに俺のバックは魅力なのか。  ふと、思ってしまった。俺が王太子でなければ、こいつらはこんなにも俺に迫ったか。きっと、答えはNoだろう。  妙な虚しさに、帰りは黙っていた。その様子を、同じ馬車に乗っていたルーセンスが気にしている。言葉はないが、空気がそうして揺れている。 「ルーセンス」 「はい」 「…もしも俺が王太子ではなかったら、お前はどうする?」 「は?」  自分で言いながら、なんて馬鹿な質問かと笑った。そもそも俺が王太子でなかったら、コイツとは出会っていなかった。そして、こうして護衛などしていなかった。  だが真面目なコイツは考えるのだ。とても真面目に、真剣に…。 「いい、忘れろ。詮無きことだ」 「…貴方が王太子ではなかったとしても、俺は貴方をお慕いしたと思います」  するりと入ったその言葉に、俺が一番驚いた。  精悍な無表情を僅かに赤くしたルーセンスは、自分で言って更に赤くして、俺から視線を外す。  やっぱり、俺はこいつが欲しい。  これはもう、心が訴えかけるものなのだとはっきり自覚した。

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