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【R18】寡黙な騎士をこの手に抱いて(6)

 それから俺は、会食という名の見合いの場合には不機嫌を隠さず挨拶のみで終わらせる事にした。  子供を売り込もうとした親にしたら、俺のこの態度に焦ったのだろう。後日届く詫びの手紙がいっそめんどくさかった。  だが、これで清々した。俺は王太子だが、結婚するならシーグルとしてしたい。次の王ではなく、俺を想ってくれる相手がいい。だから、これでいいんだ。  そんな事が数日続いた日の夜、俺はルーセンスを部屋に呼んだ。ここ数日の不機嫌に一番驚いたのは、何を隠そうこの男だ。  俺の部屋へと大人しくきたルーセンスは、部屋に明かりが灯っていない事に首を傾げた。 「シーグル様?」 「ルーセンス、こい」  ベッドに腰を下ろしたまま呼んだ俺に、大人しく近づいてくるルーセンスは、それでも距離を保とうとする。手招き、数歩近づき、また手招く。そうしてあいつの腕を掴める距離にきた所で、俺は腕を思い切り引いた。  突然の事に倒れ込むルーセンスを下から支えつつ、俺は口づけた。驚いたように見開かれた赤い瞳。慌てて離れようと力の入った体。全てを許さなかった。  強く離さずに引き寄せ、より深くを求めるように押し当て、促すように舌で唇をなぞった。 「っ!」  気持ちいいのか、僅かに息を詰めたのが分かった。微かに体が揺れたのが分かった。俺はなおも舌で唇をなぞる。さっさと開けろと突けば、僅かに隙間があいた。そこに、俺はするりと滑り込み隅々を嬲っていく。  甘い吐息が漏れる中、コイツは固まったようにしている。まったく、キスの仕方も知らないのか。思えば、少し面白かった。 「シーグル、様?」 「口開けろ」 「んぅ! ふっ…」  近い距離からまた口を塞いだ。呆けたような口腔に最初から侵入し、絡めていけば硬直している。それでも気持ちがいいのか、ルーセンスの声には甘さがあった。 「気持ちいいか?」 「…はい」 「俺が、欲しくないか?」 「え!」  顔を上気させたまま、赤い瞳が俺を見つめる。それを真っ直ぐに見ながら、俺は服のボタンを一つずつ外した。 「シーグル様!」 「お前が欲しい。ルーセンス、お前はどうだ」 「どうと…言われましても…」  困った顔のルーセンスの肌が、熱い事は知っている。手をとて、俺の肌に触れさせた。熱く無骨な手が、それすらも許されないようにビクリと震えた。 「俺の匂いは、お前を欲情させないか?」  困った顔をするな。これでも俺は、精一杯にお前を誘っている。遊びじゃないんだ、察しろ。お前だけだぞ、こんな風にキスをするのは。  俺は散々遊んでも、キスはしない。それは母が「ファーストキスは大事な人の為に取っておきなさい」と昔から言っていたからだ。  そんな風習この世界にはないのだが、小さな時からなんとなく憧れはあった。  こんな事を言って、お前は分からないだろう。だが、俺の特別をお前に渡した。大きな意味があるんだぞ。 「ルーセンス、答えろ」 「…私がお相手では、あまりに分不相応です」 「何が不相応だ?」 「貴方は王太子殿下。私は騎士でしかありません。そのような者が貴方に触れる事は、あまりに…」 「ならば俺が王太子を捨てると言えば、お前は俺に触れるか?」 「そんなこと!」  焦ったコイツが俺の肩を掴む。必死なその顔を見つめ、俺は笑った。 「王太子か…やはり要らん肩書きだったな」 「シーグル様…」 「この地位を欲して求めもしない者が集まり、かと思えば求める者はこの地位に臆して手も出さない。俺は…誰かを求める事ができないのか」  それは、苦しい事だ。  あまりに難儀で、あまりにショックだった。そして、今があまりに滑稽だ。こんな事で拒まれるとは思わなかった。  ならばいっそ、命じればいいのかもしれない。コイツは俺の命令に逆らわない。だがそれをしたら、虚しさばかりが押し寄せるような気がした。 「上手くは、行かないものなんだな」 「シーグル様…」 「もういい。下がれ」  年齢、地位、そんなものが邪魔をする。俺一人の気持ちでは駄目なのだろう。命じればそこに心はなくなる。一時は良くても、徐々に虚しさが募る。これはもう、諦めるしかないのかもしれない。

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