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【日常】新緑の騎士の奮闘記(10)

 目が覚めた時、そこは温かく柔らかな布団の中だった。  色々な記憶や感情がない交ぜになって混乱している。更に体に力は入らず、起き上がる事すら億劫でならなかった。 「目が覚めたか?」  声のした方へとぼんやり視線を巡らせると、綺麗な銀の髪がまず目に入った。見下ろされる青い瞳が、気遣わしげに細められる。そして大きな手が、私の髪をくしゃりと撫でた。 「ルーク」 「グラース様?」 「あぁ、よかった。意識が戻ってきたな」  穏やかに微笑まれ、私は徐々に意識がはっきりとしてきた。そして、驚いて起き上がろうとして、上手く力が入らずにガクンと再びベッドへと落ちて行った。 「大丈夫か」 「はい。あの、何故私は…」  おそらくここは城の中だ。問題は何故こんな場所で寝ているのかだ。  私の焦りを感じてか、グラース様が穏やかに笑う。そして、ベッドの端に腰を下ろして事の顛末を話してくれた。 「ジュディスが攫われ、お前が追った。そこで、ジュディスの魔力が暴走をしたのだろう。おかげで直ぐに軍が追いついて馬車を発見したんだ」 「……そうでしたか」  朧気ながら思いだした。ジュディス様が攫われてしまったのは、私のせいだ。 「あの、グラース様」 「どうした?」 「…私はやはり、ジュディス様の護衛など務まりません。この度姫が攫われたのは、私の不注意です。申し訳ありませんでした」  体に思うように力が入らず、起き上がって頭を下げる事もできない。情けなくて消えてしまいたくなる。大切な人を守る事もできず、何の為の護衛なのか。  だが、グラース様は穏やかに微笑み、首を横に振った。 「ジュディスが攫われたのは、手洗いだったそうだ」 「え? はい。ですが、その間とて護衛なら…」 「恥ずかしいから離れて待っていてと、お前に頼んだと言っていたが」 「はい」  確かにそうだった。私が子供達と話していたのは手洗い場の直ぐ側だった。 「ジュディスは手洗い場の中で襲われ、お前がいるのとは別の窓から外に出された。お前を遠ざけようとしたのは、その間に森に紛れてしまう為だったようだ」  だから、分からなかったのか。私は確かに手洗い場の入り口を視界に入れていたはずなのだ。 「…それでも、私に落ち度があったことは否めません。私は…」  守れなかったのだから。  グラース様は穏やかに笑う。そして強く、私の髪をクシャリと撫でた。 「それは、本人を前にしても言えるか?」 「え?」  ドアが開く。そうして入ってきたジュディス様は私を見て、エメラルドの瞳に沢山の涙を浮かべる。駆け寄ってきたジュディス様はそのまま私に覆い被さるように抱きついて、声を上げて泣き出してしまった。  どうするのが正しいのか。私はそっとその頭を撫でていた。震える肩を、抱きしめていた。 「ごめんなさい、ルーク」 「ジュディス様?」 「寒くして、ごめんなさい。私…」  私は笑みを浮かべ、首を横に振った。謝られる事など何もないのだから。 「ルーク、私の事嫌いになった?」 「まさか! どうして…」 「私が、ルークを傷つけてしまったから。背中、沢山痛かったでしょ? 沢山血も出て、私…」  泣きながらそう言ったジュディス様に、私は笑った。そして、首を振って全てを否定した。なぜなら、痛くなどなかったのだから。この方を、嫌いになる事などないのだから。 「痛くなどありません。ジュディス様の事を、私はお慕いしていますよ」 「本当?」 「えぇ、本当です」  ようやく顔を上げた、涙でぐちゃぐちゃの頬を手で拭いながら、私は自然と笑っている。  その側で、グラース様もその様子を見て穏やかにしていた。 「ルーク」 「はい」 「お前を正式に、ジュディスの護衛につける。精進してくれ」  驚きながらも、ジュディス様が向けてくれる信頼の瞳に私は心を決める。二度とこのような体たらくがないように、しっかりと心に焼き付け、そしてグラース様と、何よりジュディス様を見て頷いた。 「謹んで、お受け致します」

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