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1話

慌ただしい朝が始まる。 バタバタと朝食を用意して、2人分の弁当も用意する。 それが未央(みお)の日課。 物心ついた時には父親と2人の生活だった。たまに祖母が面倒を見に来てくれていたけれど、祖母のもう結構な年になり、2時間離れた場所まで来るのはキツいだろうと、未央が中学生に上がった年から断るようになった。 そして、こちらから祖母の家に遊びに行くようになっていた。 「おはよう未央」 ネクタイを締めながら父親が顔を出す。 「父ちゃんおはよ」 未央は既に朝食を食べ終わっていた。 「俺、先に出るけん食器つけといてよ、帰ってから洗う」 「珍しいな?どうした?」 「ちょっとね」 「なんだ?彼女でもできたか?」 父親はニヤニヤする。 「はあ?男子校のどこに女子が?」 思春期男子をからかうのが面白いのか?と言わんばかりの未央。 「違う学校だから早く行くとか?」 「違う!じゃあ、いってきまーす」 未央は食べ終わると立ち上がり食器をシンクへ。そして、自分用の弁当を持つと床に置いていた鞄に詰める。 「あ、未央、今日は早く帰るやろ?」 バタバタと走る未央の後ろ姿に声をかける。 「スーパー寄って帰る!今日は玉子とトイレットペーパーが安かけん」 後ろ姿のまま手を振り玄関へ。 しばらくして鍵を開ける音とドアの開け閉めの音と鍵を締める音が聞こえた。 ◆◆◆ 全力で走って駅に着く。 息を切らしながら駅の側の花屋に視線を向けるとそこには開店準備に忙しそうな男性がバタバタしていた。 未央の視線に気付いたのかこちらをみてニコッと微笑む。未央は慌てて頭を下げて改札口へと入って行った。 あの花屋は数ヶ月前に開店したばかりで未央に微笑んだ男性がほぼ、1人で切り盛りしているようだ。 いつだったか未央が定期を落とした時に改札まで走ってきて声をかけてくれたのだ。 凄く優しい笑顔と物腰の柔らかさと男性だと分かっているけれど、凄く綺麗な顔立ちのせいで恥ずかしくてキチンとお礼を言えなかったのだ。 いつか、ちゃんと言わなくちゃと思いながら今に至る……。 朝早く出たのも今日は1週間の内で一番暇そうな朝だからだった。 朝早くならお客さんも居ないだろうし……いつもは女性客ばかりで高校生の未央は近寄れないのだ。 ◆◆◆ 「はい、はい……今日もお礼言えんかったとな」 机に伏せる未央の頭にペットボトルを置く幼馴染の哲。 「テツ……俺はヘタレばい……」 「うん、知っとーよ」 「……慰めろよ」 顔を伏せたままに言う未央。顔を上げればペットボトルが落ちるから。 「お前がバスケ部入ってくれたら慰めてやる」 「いやだ!」 「なんで?」 「お前、知っとーやん!うちは当番で家事せなダメやし、色々とあると!」 「お前んちの父ちゃんだって、本当はお前に青春してほしいかもばい?」 「何やね、その青春って……」 「バスケ!」 「バスケ馬鹿……大会いつも負けとーやん」 「……お前、自分が落ち込んどるけんって気にしてる事をズバと!」 「いいけん、ペットボトル下ろせよ」 未央はペットボトルを掴む。 「落ち込んでるお前に差し入れ」 顔をあげると哲は手を振って自分の席に戻って行った。 ペットボトルは未央が好きなカフェオレだ。 何だかんだ言って哲は良い奴だ。 ◆◆◆ 放課後、哲に散々、バスケ部を見に来いと言われたけれどスーパーの特売日なので逃げてきた。 夕方も花屋の前を通ったら珍しく店は閉まっていた。いつもなら夕方過ぎても開いているのに。残念だな……と思ってしまう自分が居る。 スーパーへ行き、カートにカゴと自分の荷物を乗せて広告の品を入れていく。 トイレットペーパーも安いよな……と手に持てるかな?なんて思いながら買い物を済ませた。 お前んちの父ちゃんだって青春してほしいかも……という哲の言葉を思い出した。 哲の家は歩いて5分くらいの一軒家で家族ぐるみの付き合いだ。 哲の父親と未央の父親が同級生らしい。大人になってもその付き合いが続いているので羨ましいのと、自分も哲とは大人になっても仲良しでいたいなと思う。本人には言わないけれど(からかわれるから) 重い荷物を持ってようやく、玄関に辿り着いた。 いつもなら未央が早く帰るのだがドアを開けると父親の靴と見知らぬ誰かの靴があった。 大きさからすると男物の靴。デザインも男物……。哲の親父さんかな?と思いながら、食材を冷蔵庫に入れる為にキッチンへ向かう。

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