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第1話

 都内のありふれた中堅私立大学、その学内にあるテニスサークル。 須藤真吾はそのサークルに所属する一年生。現在、夏休み中のサークル合宿に参加中だ。  避暑地として全国でも有名な高原の、テニスコート付きペンションを借りての合宿。毎年の恒例行事となっており、このサークルの目玉イベントでもある。  とはいえ今年の夏は未曾有の猛暑で、避暑地と言えども日中は三十六度を超える日もあり、とてもじゃないが昼日中優雅にテニスなど楽しめたものではない。  全く合宿本来の目的を果たせず、部員たちは日中談話室でテレビを見たり、割り当てられた部屋で思い思いに過ごしたりしていた。  そして陽が傾いてきた夕方の三時間ほど、申し訳程度にコートに出て打ち合い、夜は夜でバーベキューや花火をしたりと、夏休みを謳歌していたのだった。 「スドシン、ビールもっとこっち持ってきて」 「はいっ」  スドシンと呼ばれたのは真吾。 一年生ということでパシリ要員として使われることが多く、今行われているバーベキューの席でもあちこちバタバタと走り回っている。 「大変だな一年生。半分持つよ」 「嵯峨先輩!」  真吾にやさしく真吾に声をかけてきたのは嵯峨篤人。三年生の先輩だ。  口は悪いが今のようなさりげない優しさを持ち合わせており、いつも周りに人が絶えない。同級生の友人からは、生来の人たらしだといつも揶揄されている。  長身に咥えた煙草が男の色気を醸し出しており、優しさとのギャップもまた魅力的である。 「ありがとうございます、助かります!」 真吾は全身全霊で感謝を伝え、二人は並んでビールを運んだ。ついでに二人並んでその場に腰を下ろし、隣同士で夕飯にありつけることとなった。  真吾は嵯峨に好意を抱いている。 ーー周りみんなが抱くそれとは異質な。  真吾の嵯峨に対する好意は、恋愛対象としてのそれだった。 二人とも、男性であるが。  真吾は物心ついた時から、同性を恋愛対象としていた。これまで片思いから先に進んだことはない。告白する勇気も持ち合わせていなかったのだ。  特にパッとしない、地味で目立たない自分にまでもやさしく気配りしてくれる、そんな嵯峨に次第に心惹かれていった。

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