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第3話
さて合宿も三日目の夜となり、いよいよ明日には帰るというこの日は、花火大会を行うことになった。といっても、当然打ち上げ花火などではなく、スーパーで売られているような手持ちがメインのセット花火だ。
夕食を終え、しばらく経った午後八時半頃には、ぞろぞろと人が庭に集まって来て、特に開始の合図などなく花火が始まった。
真吾は相変わらず花火を配ったりいくつもの蝋燭に火を点けてまわったりと気忙しく動いていたが、嵯峨がたまたま一人なのを見つけて一目散に駆け寄った。
「先輩!どーぞ」
何本かで一人分、と分けてあった花火のひと束を嵯峨に渡す。
「ん、サンキュ」
「火もありますから。一緒にしましょ」
一人当たり十本ほど割り当てられた花火は、あっという間に消費されていく。
それでも最近の手持ち花火は燃焼時間が長くなっており、一本あたりの燃焼時間は九十秒。
つまり九百秒、十五分が真吾に与えられた嵯峨との時間。
赤や青の炎に照らされ、嵯峨の横顔がいろいろな色に染まるのを、真吾は熱のこもった目で見つめていた。
珍しく嵯峨も何も話さないので、二人は黙ってひたすら花火を見た。
残りの花火が減っていく。
「あ、いよいよ明日で終わりですね。ほとんどテニスできなかったけど」
このまま終わってしまうなんて。
一念発起して真吾は嵯峨に話しかけた。
横顔を独り占めできているだけでも幸せだったが、やはりここはもう一歩踏み込みたい。
「だな。真吾ちゃんはテニス好き?」
「はい!大好きですよ、先輩と同じくらい」
「はは、まーた言ってら」
乾いた笑いを発した後、嵯峨はまた無言で花火を見る。
本気であることが、伝わっていない。
伝えるべきか、伝えないべきか。
残る花火は三本、伝えるなら今だ。
なかなか一人でいることのない嵯峨、このチャンスを逃せばもう二度とこんな機会には恵まれないかもしれない。
どうする?
迷っている間に嵯峨は新しい一本に火を点け、残り二本となってしまったーー
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