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第91話
10分程で着いた、あの公園は閑散としていてとても寂しかった。
もちろん遊具はあるが、子どもの姿はないし周りに人がいる気配もなかった。
近所の人は、たぶんこの公園の前を通るのを避けているんだ。人目に付かないから、絶好の場所なんだろうけど。
「誰もいないな。いつもこんなだったか?」
「はい、たぶん……。あ、あそこのベンチが並んでるところ。右側のベンチに座っていたら、『待ち』の意味なんです」
俺はベンチが並ぶ場所を指さし、前に早川さんから教えて貰った事を蓮さんに伝えた。
この公園を利用する人全てがハッテン場に来た訳でない。だから、ハッテン場を利用する人は『待ってる』の意味で右側のベンチに座るようになっているんだ。それがここのルールなんだとか。
当時の俺はそんな事は知らなくて、間違って右側のベンチに座っていたから早川さんに声を掛けられたのだと思う。
「それ、誰に教えてもらったんだ?」
「えーと……、当時良くしてくれていた人……です」
「誰だ?名前言って」
「え? 名前言っても蓮さん分かんないし……」
「いいから」
少し怒った様子の蓮さんが、早く言えと言わんばかりに早口で喋る。
なんか、急いでる……?それとも俺が怒らせた?
あまり人の名前を出すのは良くないと思うが、言わないと蓮さんの機嫌が治らない。
仕方なく、名前を口にしようとすると蓮さんのスマホが鳴った。
画面を見て、舌打ちをして「待ってろ」とだけ言って何処かに行ってしまった。
俺が怒らせてしまったのかな……。後で謝ろう……。
「夏樹くん……?だよね?」
「あ……」
シュンと肩を下げてつっ立っていると、後ろから名前を呼ばれた。
聞いた事のある声だと思い、振り返ると……そこには先程思い出していた早川さんが立っていた。
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