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第114話
帰り際、そうだ!と春樹は蓮の元へ駆け寄った。
「蓮さん、兄さんは俺の為にたくさん我慢してきたから、自分でも分からないうちに我慢してしまってると思うんです。だから、たくさん甘やかしてあげてください。 一人で悩みを抱え込む癖もあるから、聞いてあげて欲しいです。兄さんの事、よろしくお願いします」
中学生らしくない、大人な顔つきで蓮にそう言う。そして、深々と頭を下げた。
それを見た蓮は苦笑して、春樹の頭をその大きな手で撫でた。
「分かった。たくさん甘やかして、絶対幸せにするよ」
「は、春樹……」
蓮のその言葉にニッコリと笑みを浮かべて、秋山の腰に抱き着く春樹は、やっぱり子どもっぽいかも。
俺が我慢している事、春樹は気付いていたんだ。だから、高校に行かないなんて言ったんだろうと思う。春樹の勘がいいのか、俺が分かりやすかっただけなのか、そこは謎だが。
「秋山さん、春樹をよろしくお願いします。春樹を泣かすような事したら許しませんからね!」
「うん、約束するよ」
ふんわりと微笑んで春樹の体を引き寄せた。すっぽりとその腕に収まった春樹は幸せそうだ。
不安だったけれど、この人なら大丈夫だろう。この人なら、春樹を幸せにしてくれる。
もう、春樹に寄り添うのは俺じゃなくて、秋山さんなんだ。
そうして二人は帰って行った。
少し寂しい気もするが、もう一生会えない訳では無いから平気だ。ずっと一緒に居られるとは思っていなかったし、将来的にはそれぞれ恋人が出来て、家庭を築くのだと思っていたからそれが早まっただけなのだ。
しかし、あの二人はどのようにして出会ったのかは未だに謎だ。今度春樹に会った時に聞こうと思う。
「寂しいか?」
「うーん……寂しいけど、嬉しい。秋山さんなら、春樹のこと大切にしてくれるよね」
「あぁ。あいつ、大切なものはとことん大切にするタイプだから大丈夫だろ」
よしよし、と頭を撫でられ、堪らなくなって蓮に思い切り抱き着いた。少しよろけたものの、しっかりと夏樹を抱きしめてくれて安心する。
俺、幸せだ。
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