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夏夢
目を開けると、白いものが降っている。真っ直ぐ向いた先には白い空が広がっており、俺は寝転がっているようだ。
それ以外は何もない、ただひたすら白い。
そういえば、俺はここで何をしていたのだろう。しばらく考えてみるが思い浮かばない。
きっと、いつものように昼寝をしていたのだろう。
急に呼吸の方法が頭からなくなり、苦しくなってくる。確か、吸ってから吐いて、それを繰り返す。
口を開け、中にたくさんのものを入れるように吸っていき、ゆっくりと入れたものを出していく。それを何度か繰り返し、今度は鼻で実行してみる。
なんだか湿ったような匂いがする。雨でも降るのだろうか。
雨が降ってしまったら濡れて寒くなってしまう。早く移動しなければと頭の中を過ぎる。
ふと、さっきから降っている白いものが俺の剥き出しの腕に触れる。氷のように冷たい。
冷たい……?
今は真夏のはずだ。こんなに冷たいものが降ってくるはずがない。
ではこれの正体は一体何だという。
俺が思い浮かんだものは一つしかない。
「雪!!」
そう言いながら俺は飛び起きた。
あたりはネオンの輝きが広がっており、快晴の夜空には星すら見えない。
生ぬるい風がどこかから吹き、半袖半ズボンでも十分暑い。
小さい建物の屋上は高い建物に囲まれて正直居心地の良いものではないが、一人で静かに過ごす場所はここ以外にない。
俺はどうやら眠って夢を見ていたようだ。
夢を見るなんて久々だ。
「雪がなんだって?」
頬に冷たいものが当てられ、あいつの声が聞こえる。
「なんでもねぇ」
顔を見ながら頬に当てられたものを受け取る。よく冷えたビールだ。
「ったく、まーた抜け出して」
「ここが気楽なんだ、俺は。下はごちゃごちゃしてだんだん目眩がしてきそうだ」
「ごちゃごちゃって……。確かに俺の仕事道具がいっぱいあるけど、きちんと規則に則って置いてあるぞ」
「あっそ」
缶ビールを開け、ぐいと一気に流し込む。喉の奥から冷たい感覚が広がる。
上を向くと、あいつは俺のことをじっと見ていた。
「なぁ」
「ん、何ー?」
「雪、見に行きたい。今すぐ」
いつものように俺は無茶振りをする。そうすると、困ったような表情を浮かべながら微笑んでくる。
「んーそうだなー、今やってる仕事が終わったらね」
「今」
「ちょっと待ってて」
「やだ」
缶の中身を空にして俺は立ち上がり、あいつと視線の高さを揃える。
俺が我儘を言い、視線を揃えてじっと睨んでいれば、大抵のことは言いなりになってくれる。
あいつの目を捉え、じっと睨みつける。
それだけで終わるはずだったのに、急に目が近付いてきて視界が暗くなってきた。
あいつは俺にキスをしてきた。柔らかい唇が俺の唇に触れている。
腰に手を回され、あいつの方へ身体を引き寄せられる。密着する面積が増え、あいつの熱が伝わってくる。
その温もりを感じると、俺は無意識にあいつの身体へ抱き付いていた。
俺がぎゅっと力を入れると、あいつの唇は離れていった。
「よーし捕まえた」
「げっ」
俺はあっさりとあいつの思う壺にはまってしまった。
固定された身体はがっちりと掴まれて動けない。
「今は雪は無理だけど、雪が見える場所みたいに冷やした部屋で今日は我慢して」
「……分かった」
久々にあいつに言いくるめられてしまった。まあ、そもそも夢に出てきたから言っただけで、絶対に行きたいわけではない。
俺は横に並び、手を繋いで一緒に歩き出した。肩より下の長い髪が歩みに合わせて揺れる。
「今日はもうちょっとで終わるから、そしたら可愛がってあげる」
「ん……」
臭いセリフではあるが、その後のことを考えるとただただ身体が疼いていた。
そっとあいつに近寄り、俺らは寄り添いながら建物の中へ入っていった。
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