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そんな幸せな時間もあっという間。 早朝、痛む腰を押さえながら地方へ出張に向かう暁斗さんを見送れば、明後日まで会えない寂しさがぶわっと沸きだす。 以前に比べれば、3日なんてほんの数日のことなのに... 付き合った途端会えないっていうのは結構辛い。 主任(ややこしいし慣れないし本人の希望らしく、俺は主任呼びを続行)は暁斗さんの出張を知っていたからか、今日明日はギチギチに仕事を詰め込んでくれて、明後日は別の休みの日と入れ替えてくれた。 ... ... やっぱりあれだ、主任は世話焼きさんだ。 有り難いんだけど自分のことももう少し気にして欲しいんだけどなぁ... 、主に千裕くんのことを。 最近の俺はクリファンの打ち合わせにデザイン製作ばかりしていて、暁斗さんの居ない間は打ち合わせこそ無いものの忙しいったらありゃしない。 幸せボケするな!ってことなんだろうか。 主任に飴と鞭を使われて、ヘロヘロになりながら3日目... 暁斗さんが帰ってくる予定の日を迎えた。 「つ... つかれた... ... 寝たい... 一日寝たい... 」 そんな言葉を漏らすほど疲れてたんだけど、俺はこの日寝て過ごす訳にはいかなかった。 暁斗さんは今夜帰ってくる。 だから、とびっきりの『おかえり』がしたい。 「... ... よし、買い物いこう... !」 付き合ったから、って訳じゃないんだけど、きっと疲れて帰ってくる暁斗さんに何かしたい。 そう思った俺はこの日初めて料理に挑戦することにしたんだ。 いつも暁斗さんに頼りっぱなしで包丁を握ったのは小学生か中学生の調理実習依頼の俺。 だけど何かしたい、喜んでほしい、その一心で買い物に向かった。 メニューはカレーに決めていた。 実は出張一日目のお昼休み、主任と千裕くんには無事に付き合えたことを報告した。 きっと主任は先に暁斗さんに聞いていたんだろう、穏やかな表情で話を聞いてくれて、千裕くんは『よかったねぇ!!』って泣いていた。 その時料理のことを相談したら、『初心者はカレー!』とアドバイスされたんだ。 切ってルー入れて煮込むだけ、そうそう失敗することはないでしょ、って。 慣れないスーパーでカゴを片手に野菜売り場を見ていると、今まで気にしたこともなかった値段やモノの善し悪しに悩んでしまう。 1本売りのニンジンか、まとめ売りのニンジンか... そもそもカレーってニンジン何本いるの? 1本で足りる???バラ売りよりまとめ買いの方がお得なんだけど... じゃがいもはまとめ買いしよう、俺が好きだし。玉ねぎは嫌いだからやめとこ。 お肉は牛肉に決まってたからあとはルーだな。 「... ... 暁斗さんって... 辛党だったけ... ?」 様々なメーカーのルーが並ぶ棚で俺は腕組みして悩んだ。 暁斗さんがブラックコーヒーを飲むことは知ってるんだけど、俺が甘いものが嫌いだからかオヤツやデザートを食べることは今までほぼなかった。 暁斗さんの料理は辛いものも甘いものもない。っていうか俺の希望で居酒屋メニューかオムライスが多いし、シチューはあってもカレーはなかったんだよなぁ... 。 無難に中辛にすればいいんだろうけど、実は自分がカレーは甘口じゃないと食べれなかったり。 うーん、聞いておくべきだった... 。 「あれ?キミ、この前... ... ... 」 そんな俺の背後で明るい声がした。 「あ、やっぱりそうだ!京極さんちのインターホンの子だよね?」 振り返ると、そこには暁斗さんの部屋のドアを内側から開けた、あの女の人... ... 三木さんがカートに子供を乗せて立っていた。 それはいかにも主婦!ってスタイルで、この前会ったときのような可愛らしい姿ではなく、パーカーにデニム、スニーカーというラフな格好。髪も前髪をてっぺんで縛って噴水みたいになっている。 「え... っと... ... 、」 「ああっ!ごめんね!?いきなり声かけちゃって... !!人違いだったらごめんなさい!!」 「い、いえ!人違いじゃないんです... けど... 」 「ほんと?あーよかった!可愛い子だったから間違いない!って思って... 。あ、私京極さんの部下で三木と申します。この前は驚かせてごめんね。」 「あ... えっと、筒尾 ひ」 「響くんでしょ?知ってる知ってる!」 「えぇ???」 「京極さんがだーいすきな響くん!」 「... ... えぇぇぇぇぇ!?!?!?」 突然現れた三木さんは何故か俺の名前と、俺と主任のことを知っているようだった。 噴水ヘアーを揺らしながら、ニッコリ笑う三木さんは、俺の悩んでいた中辛と甘口のルーを一つずつカゴに入れた。 「な、ななななな!?」 「ふふ、そんな驚かなくても!」 「驚くっていうか、え!?なんで!?俺間違えたって... !」 「あの顔で間違えました!は無いでしょ?私、あのときマジでやっちゃったー!って冷や汗かいたし。それに京極さんもモニターの履歴見て血相変えて帰れ!って言うんだもん。こりゃ何かあるに決まってる!って思ってね!」 「... ... ... ... ... !!」 「あ、ちなみに誰かに言ったりなんかしないよ?私そういうの素敵だと思うしね♪」 パチンとウインクする三木さんは『安心して』と付け加えた。 それから聞いていないのに、 「そうそう、京極さんは甘口だよ!なんで知ってるかって言うと会社の食堂のカレーが辛くて食べられないから。... じゃ、頑張ってね!」 悩む俺にそうアドバイスを残し、颯爽と去っていった。

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