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「へー!そっかそっか、よかったじゃん!手料理とか羨ましーっ」
「ダッチーはともちゃんいるじゃん。」
「そうだけど!既婚者からしたらそういう話ってもう無いわけじゃん?慣れてく一方っていうかさ。な、もっと話してよ!」
「ええー?何をだよ...」
「出会いとかー、どんな人かとかー、どんなデートしてるとか!」
俺の恋人に食い付いたダッチーは、追加で焼き鳥を注文してから俺にあれこれ聞いてきた。
だから出会いと陣のこと、あとはデートと呼べるか分からないけど出掛けた時の話をやんわりとすると、ダッチーはニヤニヤしながら焼き鳥を食べていた。
「いい人じゃん!姐さん女房ってやつ?」
「んー...まぁ、いい人だけど...」
「何、不満あるの?お前が一番で料理も家事も全部してくれて、それでいいって言ってくれて?不満あんの!?」
「いや...不満って言うか...なんて言うか...」
「はっきり言えよー!俺と響の仲だろ?」
俺も焼き鳥を食べながら、何処まで話していいのか考えた。
まず暁斗さんのことは言えないし、そうなると好きじゃないのに付き合ってるっていうのはおかしいし。
そこは省いて話すなら、思い浮かぶ不満は最近の陣のこと。
酒の席だし話してもいいか、と軽く考えて、俺はダッチーに『陣への不満』を話した。
「...なんかさぁ、ずーっと一緒に居るんだよ。何でも話すし隠し事はしないし。」
「それが?付き合ってるならいいじゃん。」
「だけどなんて言うかさぁ、近すぎるっていうか...一人の時間がないって言うか...」
「一人の時間?」
「休みの日に1日ベッドでゴロゴロしたり、フラフラ買い物したりテレビ見たり...そんな時間が無いんだよなぁ...」
「言えばいいじゃん。たまには一人でゆっくりしたいーって。」
「言えないんだよ。ってか言わせない雰囲気っていうか...会社でも残業出来ないから直帰だし、今日のことも若干嫌がってたし。」
陣が嫌いなんじゃない。好きになろうとしてる。
だけど一緒に居る時間が増えれば増えるほど、陣の優しさや俺を考えてしてくれることが重たく感じてしまう。
どうしてそう思ってしまうのか?と自分が嫌になるくらいに、最近の陣と一緒に居ることは苦しかった。
「んー...束縛系か。」
「束縛なのかなぁ...そんな人じゃなかったけど。」
「付き合ったらあれこれ縛りたくなるんじゃねぇの?『自分のモノ』ってアピールしたいっていうかさ。」
「そうなのかなぁ...。あーっ、帰りたくないーっ。アパート帰ろうかなぁー。」
「そうしたら?どうせまだ飲むし、たまにはいいんじゃね?」
「うん、そだね。...メッセージ送っとこ。」
ダッチーに背中を押された俺は、『今日はアパート帰るね!』と陣にメッセージを送った。
陣も一人で過ごすことって無いだろうし、やりたいこともあるだろう。
『たまに』のことなんだからこれくらいで何か言うこともないだろうし、と簡単に考えていた俺は、そのあともビールのおかわりと久しぶりの居酒屋メニューを堪能した。
*****
「あれぇー...鍵どこだっけぇ?」
日付が変わってからダッチーと別れ、千鳥足でなんとかアパートに着いた俺。
最近じゃ使うことの減った自宅の鍵を探していると、ポケットのスマホが震えているのに気が付いた。
「はいはぁーい?」
『はいはいじゃないだろう。お前今まで何してた?』
「えー?ダッチーと飲んでたよぉ?」
『本当に?』
「ほんとほんと!俺ねぇ、久しぶりにあんなに飲んだーっ!今超気持ちいい~」
『...今、何処だ?』
「アパート着いたとこぉ。鍵...あ、あった。」
『迎えに行く。』
「えー?」
『迎えに行く。外で待ってろ。』
ブツリと切れた電話。
陣のイラついた声。
そしてよく見ると、俺が陣にアパートに帰るとメッセージを送ってから何通もメッセージが入っていて、着信履歴も何度かあった。
アルコールでよく回らない思考でも、『マズイことをした』と分かる。
きっと陣は怒ってる。
その電話から数分後、猛スピードで到着した車から陣が降りてくると、何も言わずに俺の腕を引いて車に乗せられた。
『ごめんね』『メッセージも電話も気付かなかった』
そう言っても陣が言葉を発することはなくて、気まずい空気の中陣の家に戻った。
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