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その間も何度かエッチはしていたと思う。 ...思う、っていうのは毎回しつこく攻められて、最後まで俺の記憶が残っていないから。 だけど翌朝見つけるキスマークの数が結果を教えてくれているようで、それもまた俺を悩ませた。 陣には言えない、俺の悩み。 それを話す人も聞いてくれる人も居ない。 「... 俺...陣しか居ないんだ...」 主任と言い合った日から、千裕くんとも気まずくて話していない。 部署が変わって暁斗さんと別れてからは主任とも千裕くんとも顔すら合わせていない。 そもそも友達と呼べる人が少なかった俺に、こんなこと話せるような存在は一人も居なかった。 『陣じゃない人と話したい』 こんなこと絶対言えなくて、俺はそんな気持ちを押し殺して家を出た。 ***** そんなある日、食後にテレビを見ていると俺のスマホが珍しく何度も振動した。 電話なんて陣しかしてこないのに、本人は俺の横に居る。 ディスプレイには『ダッチー』の文字があって、久しぶりの電話に俺のテンションは上がった。 「もしもし?ダッチー?」 『あ、響?今大丈夫?』 「うん、どうしたの?」 『週末暇してない?友美が実家に帰るから久しぶりに飲みのお誘い。仕事忙しい?』 「週末?...大丈夫、仕事終わってからなら。」 『了解、じゃあまた連絡するわ!』 「はーい、またねっ」 パーティーぶりのダッチー、しかも飲みに行こうだなんて誘いは俺の胸を弾ませる。 陣とは毎日一緒に居るし、週末の1日、しかも夜からの数時間くらい遊びに行ったって大丈夫だろう。 そう思って横で会話を聞いていたであろう陣の顔を見ると、明らかに機嫌の悪い顔をしていた。 「あ、あの...陣?俺、週末出掛けるね?」 「...聞こえた。」 「前にパーティーで喋ってた親友、ダッチーとだから...」 「知っている。お前が好きだった親友だろう?」 「それは昔の話で...今は普通に友達だから...」 「......分かった。」 「ご、ごめんね?」 「別に、謝ることじゃないだろう。」 絶対に怒っている、そんな顔をしているくせに陣は『楽しんでこい』と言ってくれた。 俺がダッチーを好きだったことを知っているから、だから心配したのかもしれない。 だけど久しぶりに陣以外の人と話せるということは、今の俺にとって楽しみで仕方なくて、俺は週末を心待ちに過ごした。 迎えた週末、俺は仕事をきっちり定時に片付けてそそくさと会社を出た。 陣の家にすぐに帰らない日なんて、いつぶりだろう? ワクワクしながらダッチーにメッセージを送ると、すぐに返事がきて近くの居酒屋集合になった。 「ひーびき!」 「あ、ダッチー!」 「おつかれー。って...なんかお前楽しそうだな?もしかしてもう一杯やってきた?」 「バカ。そんな訳ないし!早く入ろ!」 18時、開店してすぐの居酒屋に入り俺たちは久しぶりに二人で飲んだ。 陣があまりお酒を飲まないっていうのもあるけれど、そもそも外食が少ないから居酒屋自体懐かしくて、俺は最初からハイペースでビールをおかわりする。 ダッチーも今日明日はともちゃんと子供が居ない自由な時間を過ごせるらしく、俺と同じタイミングでおかわりを注文していた。 「っあー!おいしっ!」 「そうかぁ?普通の生中だぞ?」 「おいしいよぉ。この砂肝も唐揚げも...枝豆すら懐かしい!」 「...お前大丈夫か?もう酔ってる?」 陣の料理は美味しい。男のくせに食材にこだわってあれこれ調味料を使って、栄養バランスだってしっかり考えられてる。 だからこそこの『居酒屋メニュー』のような高カロリーな食事が並ぶことなんてあり得ない。 食べたいと言ったもののうち一つは作ってくれる優しい陣だけど、それでも俺は息苦しいと思うことが増えていた。 「大丈夫大丈夫。外食久しぶりだし、テンション上がってるだけ!」 「へー。自炊してんだ?」 「ううん、俺はしてない。」 「え?じゃあ何、もしかして実家帰ったの?」 「んな訳ないじゃん!... えーと...今付き合ってる人が作ってくれるの。」 今までならわざわざ自分から『付き合っている』だなんて言うことは無かったのに、俺は自分からそう口にした。 勿論それが男だということは伏せてだけど、とにかく誰かと話したくて、陣じゃない人と喋りたくて仕方なかったんだ。

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