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第2話

ー…かさ、つかさ…ー 声が聞こえる。 まだ眠いから煩わしく感じて耳を両手で塞ぎ相手が諦めるまで待つ。 まだ冬休みなのにまた母さん学校に行く時間とか勘違いしてんのか? ゆさゆさと身体を揺すられて意地でも起きたくなくてギュッと瞼を閉じた。 やがて振動が消えて、やっと安らかに寝れると安心して再び眠りの世界に旅立とうとした。 「起きんか馬鹿者が!」 「ぐえっ!!」 腹に衝撃が走り、あまりの痛さに涙目になりながらむせる。 母さん腹を殴るとか何考えてんだよ… 抗議のためにキッと声をした方向を睨む。 ……あれ?母さん、年寄りになった? まぁそんな事はあり得ないから知らない老人だろう…そもそもお爺ちゃんだし…性別からして違うし… 母さんが入れたのか?…もう、俺にもプライベートがあるんだぞ。 「あのー、どっかの遠い親戚の方ですか?勝手に部屋に入られるのは困るのですが…」 「全く師匠の顔を忘れるとは馬鹿弟子を持ってワシは悲しいぞ」 「痛っ!痛っ!」 ちょっ、手に持った木の杖で人の頭叩かないでよ! それに師匠とか弟子とか何の話? そこでまじまじと師匠と名乗る老人を眺めた。 銀の刺繍がキラキラ光る黒いローブに胸まで長い髭は三つ編みにしていて、白髪で厳しげな赤い瞳。 ちょっと猫背なお爺ちゃんを俺は見た事があった。 いや、そんな馬鹿な…コスプレ? シャドウナイト内で職業を決める時に同時に付いてきてクエストなんかを出してくれるオスカー師匠が目の前にいた。 …それにしてもクオリティ高いな、この髭とか本物そっくり。 こんな長い髭の奴、海外のびっくり人間でしか見た事ないからつけ髭だと思いグイグイと髭を引っ張った。 「外で熟睡なんてするから脳みそまでカチコチに凍っちまったのかのぅ」 「ぎゃー!!助けて師匠!!」 突然師匠の足元に黒い水溜りが出来て、黒い魔法陣が現れる。 これは同じグリモワールだから分かる、使い魔召喚の魔法陣だ。 グリモワールの使い魔は全て呪われていて主に呪で攻撃をする。 師匠の使い魔は大鎌を持った巨大な骸骨の死神だ、勝てるわけねぇ!! コスプレでこんな事出来ない。 そんな、まさか…じゃあここは… 「そうか、これは夢か!…いてっ」 コツンと師匠の杖が飛んできて頭に直撃した。 …痛い夢ってあるのか?現実の俺が頭を打ったとか? この場所は寝落ちした王都を出てすぐの草原だった。 初期モンスターが群れているが、ある程度レベルが高ければ襲われないからよく此処で寝落ちするプレイヤーが多い。 俺は此処で寝てたのか…しかし、いくらシャドウナイトが好きでもまさか夢に見る日が来るとは思わなかった。 同じ夢を見る可能性は低いし、この際存分に満喫するか! 昨日雨が降っていたのか、地面の窪みに水が溜まっていた。 水を覗き込み映し出されたのはやはり俺のアバターの容姿だった。 黒いローブの上に三角の出っ張りが二個付いている。 これは服装ガチャで当てた男女兼用の猫耳ローブだ。 男が着ても可愛くないが、SSRだったからつい着ている…ちなみに俺に猫耳が生えたわけじゃないよ。 そして茶髪に何処でもいるような普通の平凡容姿…あれ?確か俺のアバターの顔カッコ良くしたんだけど、俺の顔じゃねーか。 …夢だからなのか?ちょっとテンション下がった。 落ち着け俺、もしかしたらレイチェルちゃんと恋仲になれるかもしれない!夢だし、好きにしていいよね! ウハウハ気分で王都に戻ろうとしたら首根っこ掴まれた。 不満そうに唇を尖らした。 「何ですか師匠、俺…恋に忙しいんですけど」 「何を言っておる、まだ今日のクエストが終わっとらんだろうが!」 「は…?いや、あれ任意じゃん!俺あんまりやってないし…」 「お前を立派なグリモワールに育てると王様に誓ったのに毎回毎回クエストをサボり、酒場に入り浸り…ワシは悲しいぞ」 ぐっ…何にも言えません。 夢の世界なら一気に飛ばしてレイチェルちゃんの恋愛イベントまで行かないかな? 王都の少し外れにある森まで引きずられた。 この森は別名「呪いの森」と呼ばれていてグリモワールを選んだプレイヤーが共同生活をしている。 初期に開始するのも此処だし、いろいろグリモワール専用の店が充実していたりや自分の家を持つ事も出来る。 ちなみにグリモワール以外のプレイヤーが入ると様々な呪いに掛かり大変だから行く人はまずいない。 画面しか見た事なかったが、実際見るとなんか怖いな…師匠に着いて来なかったら一人で行きたくない。 何人か動いている、あれはプレイヤーか?いつも頭の上に名前が書いてあったから、ない今よく分からない。 不規則に並ぶ数多の家の中の俺の家に到着してドアを開けた。 ちょっといろいろと作ったもので少し汚かった。 普段はメニュー画面に作ったものが収まってるから現実だとこんな感じになるのかとちょっと感動した。 「此処に今日のクエストを書いたから全てこなしたらワシのところに報告に来い、後…部屋は綺麗にしとくのじゃよ」 師匠はチラッと開いたドアから中を見てため息を吐き、自分の家に帰ってしまった。 師匠の家は一番奥の二階建てのいい家だ。 俺も二階建てが良かったが、そんな機能はないから我慢している。 家に入り、クエストを見る。 呪いグッズ製作と使い魔トレーニングと木ノ実を採取か。 早く終わらせてレイチェルちゃんのところに行くぞ! まずは呪いグッズ製作か、何でもいいなら材料が少ないワラ人形でも作るかな? 初期で覚えるレシピだから攻撃力が低すぎて、正直かさばるだけだが他のレシピは材料調達しに行かないとないから仕方なくワラ人形を作る。 簡単に作れるから鼻歌混じりで製作する。 そんな俺に忍び寄る影が手を伸ばしていた。 「はっ!!…気のせいか」 後ろを振り返っても誰もいなかった。 ワラ人形を三体作り次は使い魔のトレーニングだ。 テーブルの上にあった小型ナイフを取り出す。 普段はタッチ一つで召喚するが実際にやるとなるとちょっと怖いな。 人差し指をピッと切りつけると小さな痛みと共に人差し指に熱を感じた。 それを一滴床に垂らすと先ほどの師匠のように大きな黒い水溜りが魔法陣になり、使い魔が現れた。 俺の使い魔は不気味な黒猫の人形だ。 あちこちに綿が出てて目のボタンが片目取れかかっていて、手には血に濡れた包丁を握りしめていた。 口は縫われていて喋れないが瞬発力は高い。 今も俺の周りを飛び回っている。 服装ガチャで服とセットで出てきた「ミュミュ」という名のキャラだ。 「じゃ、トレーニング行くぞミュミュ!」 俺はトレーニングをしに狩り場に向かった。 ミュミュは無言で後ろを着いてくる。 そんな俺達を熱く見つめる視線に早く終わらせたいと思ってばかりいた俺は気付かなかった。 「…待ってたのに告白に来ないから可笑しいと思ってたらこんなところにいたのか…もう逃さないよ、俺の花嫁」 ふふふふっ、とグリモワールより不気味に笑う麗しの騎士様に周りはビビっていた。 何故職業剣士である騎士がこの森に入れたのか謎だが、怖くて聞く勇気はなかった。 騎士の影が追いかけるように伸びていく。

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