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第8話

「ねぇちょっと話そうよ、あのゼロを落としたエピソードとか聞きたい!」 炭のエピソードを聞きたいなんて変わってるなと他人事のように思っていたら、ゼロ並みの強引さで引っ張られた。 レイチェルちゃんの酒場じゃなきゃ即帰ってた。 再び酒場に入り、特等席のようにカウンター席に座る。 カウンター越しでレイチェルちゃんをジッと眺めていたら朝っぱらからビールを飲む人懐っこい男に「浮気はダメだよ」と言われた。 浮気じゃないし!と不満気に水を飲む…さっきちょっと高いの買ってお金があまりない。 ゲームとはいえ未成年だから酒を奢られそうになったから断った。 「でさ、ゼロの馴れ初めなんだけど」 「あっ!そうだ!さっきゼロに戦いを挑もうとしてた人が居てですね!」 馴れ初めなんてないし、話したくないから話題を変えた。 何故そんなに馴れ初めが聞きたいんだ、攻略不可男だからか? 同じゼロの話題だからいいだろ?と目を丸くさせ驚く男を見る。 人懐っこい男は八重歯を見せて笑いながらビールを一口飲む。 彼もゼロを知ってるからか余裕そうだった。 しかし、嫌な笑みだな…本当になんか嫌だ。 「ゼロは愛されてるね、恋人に心配してもらえるなんてな」 「あ?」 おっと、つい柄が悪くなってしまった。 何度も言うが心配してるわけではなくてな…べ、別にツンデレじゃないよ! とにかく「何言ってんですか貴方、はぁ?」という顔をした。 人懐っこい男は人の話を聞かない男でもあり「いいなぁー、俺も彼女欲しいなー」とレイチェルちゃんを口説こうとしたから椅子の足を一本折ってやった。 どうだ!座れないだろ!俺の前でレイチェルちゃんを口説こうとするからだ! その後、レイチェルちゃんに怒られたのは察して下さい。 ※ゼロ視点 影に目をつけてツカサを観察していた。 今まで戦闘以外に役に立たないと思ったが、いい仕事をする。 常に俺の目線がツカサのローブの中で目に優しい。 …あ、鼻血が… 「おい!ゼロ!俺達と勝負しろ!」 ドンドンうるさいが、無視する。 日陰に行くと影が切れてしまうな…改良するべきか。 本当は影ではなく俺本人が行きたいがいろいろ不自由な身だから困る。 その点影が居ればツカサを四六時中見ていられるし決して離れない、最高だ。 ツカサがアルベールと会話をしてるようだ…俺のツカサと…俺の… さっきまでツカサと一緒で幸せだったのにふつふつと怒りが湧く。 「怖気付いたのか!!」 あー、うるさい… バンッと思いっきりドアを開くとさっきまでドアを叩いていた奴が吹き飛んだ。 残りの二人は目でソイツを追っていた。 そんな事はどうでもいい、俺とツカサの時間を邪魔する奴は誰だろうと許さない。 腕組みをして睨む。 それだけで訪問者共は震え上がっていた。 「何の用だ、今の俺は機嫌が悪いんだ」 「ど、どうする?」 「大丈夫だ、俺達にはアレがある!」 なんか二人して小声で話していて、用がないならツカサを観察し直そうと戻ろうとした。 ドアを掴まれ止められて、さらにイラッとした。 二人はなんか引きつった笑みで俺に稽古を頼んできた。 …八つ当たりにはいい道具だとニヤッと凶悪な笑みを浮かべた。 少しの間、影がツカサから離れるがすぐにまた繋げるから大丈夫。 普段は闘技場に使われる地下の広場にやってきた。 剣士と弓使いか…まぁ、何でもいいが。 「10秒で終わらせてやろう」 今まで耐えれた奴で長かったのはそれくらいだから充分だろうと思った。 …本当は1秒もツカサと離れたくないけど… その間にアルベールとなんかあったらと思うと自然と拳を握る。 完全に見下す態度で男達は怒りを露わにしていた。 コイツらがどんだけ強いのかなんて興味ない、俺を一度でも負かしたら見直してやる。 ……まぁ見た目からしてダサい装備だし、弱そうだから無理だろう。 「ふんっ!10秒でお前を倒してやる!これがあればな!」 そう言い男が手にしたのは紫色の魔法陣が描かれた短剣だった。 …この魔法陣、グリモワールの呪いが掛かってるな。 じゃああの吹き飛んだ奴はグリモワールか、へぇー… 興味なさすぎて気の抜けた感想しか出てこない。 グリモワールは呪い系の技が効かない…俺も元グリモワールだからその体質は受け継いでるから呪いは効かないんだけどな。 言う義理はないから黙って見ていた。 「何だか知らないが、さっさと来いよ」 「後悔すんなよゼロ!!」 時間が惜しいと思い言うと早速襲いかかってきた。 俺の影はツカサから戻ってきて今影がある状態になった。 ツカサのところにいる間は俺の影はない…それで不自由する事はないから別にいいけど… てっきり馬鹿みたいに真正面から来ると思ったら剣士は俺の影に剣を突き立てた。 影の動きが止まった。 それを見てケラケラ笑っている。 「……」 「どうだ!激レアの影踏みの短剣の力は!」 影踏みの短剣…売ってないから製作でしか手に入らず、滅多に出来ない希少価値がある使い捨て武器だ。 影は流石に鍛えられないからグリモワールでも効果はあるだろう。 普段は影に刺し相手の動きを止める役割があるが、俺は影を操るから俺の攻撃を止めた……気になってんだろうな。 密かに微笑む。 さすがにこれは失笑する。 本気で俺を倒したいならもっと敵の情報を知っとけよ。 「この短剣、一本だけか?」 「あ?当たり前だ!この一本にどれだけの材料を消費したと思って…」 「足りないな、俺の動きを止めるなら100本はいるだろ」 ざわざわと周りの物の影が揺れる。 まるでお化け屋敷に来たみたいで二人の男は震え上がっていた。 会話を除いて5秒くらいか、10秒もいらなかったなと考える。 俺は攻撃が始まってから一歩も動いていない。 地下は薄暗く俺のフィールドなんだよ。 僅かな隙間に出来た影がどんどん延びていき二人組に向かう。 「俺は影使いだぞ、自分の影しか操れないわけないだろ」 男達の影に赤く光る目が見えて、影の中に引きずり込まれる。 もがき苦しむ声はやがて小さくなり、聞こえなくなった。 すぐにツカサの影と繋げる。 ツカサの影は暖かいとホッとしながら何もなくなった広場を後にする。 俺は他人や物の影を操る事が出来る。 便利のように見えるが、欠点がある。 影は光がないと身を潜めてしまう。 10秒持った奴がその弱点に気付き、それで戦いを挑んで来た。 炎の魔術を出せば影を作れるし、俺の剣術はマスターしているから10秒で倒せる。 それさえあれば弱点なんてないようなものだから気にしてない。 …しかし、電気が消えたらツカサの寝顔が見れない。 一番の死活問題だ…よし、改良してもっと便利な影を作ろうと思った。

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