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第16話

「…ツカサ?」 「ん?こ、これは…」 俺の目に映ったのはずっと見たかった俺の腕! 本物かどうか触って確かめる。 うーん、すべすべで細くてなんか弱っちそうな腕は俺の腕だ! なんで戻れたんだ?…さっき、そういえばゼロにキスされて… お伽話みたいだな、王子にキスされて姫は目覚めるってか?王子でも姫でもないが… とりあえず戻れたからファーストキスはノーカンにしとこう!ゼロは俺じゃなく猫とキスしたんだからな! ゼロは俺をジッと見てる、俺の顔じゃなく下だけど… 「…な、何だよ」 「いや、子作りしようって言ったのは俺だけど…ツカサがここまで積極的だとは思わなくて」 「はぁ?何言って…」 ゼロに言われ視線を下に向ける。 俺は今、大変な事実に気付いてしまった。 なんで俺…裸なの? 猫に戻ったからか!?そこは服もセットにしてほしかった! フルヌードで全身何も隠す仕草をしていなかったからゼロに丸見えだった。 女の子の前で解けなかった事を喜べばいいのか、ゼロの前で無防備にしている事を恐れればいいのかパニックになる。 「はわわっ!見んなよ!こっち見んな!」 「…見んなって、ツカサが見せてるんじゃ…」 「見せてねぇよ!!」 ゼロに跨っていた状態だったからすぐに退き、とりあえず毛布で全身くるまり、ゼロから距離を取る。 どうしたもんか…このままじゃ外に出た瞬間に捕まる。 とはいえゼロと一緒の空間も危険だ。 悩んでいると後ろからゼロが抱きしめてきて逃げ場を失った。 逃れようとするが毛布を引っ張られてるから下手に動くと大惨事になる。 毛布だけは死守しなければ、毛布だけは… 「ツカサ、恥ずかしがる事はない…俺に全て任せろ…安心して寄りかかればいい」 「安心出来る要素が一つもない!…それに男が妊娠出来るか!」 「…俺は黒魔術をマスターしてるから余裕余裕」 そんな怪しげな黒魔術があるのか!? ゼロはマスターしてるから自分で創作の魔法とか作ってそうで恐ろしい。 なら尚更逃げなければ、既成事実を作られたらおしまいだ! 俺がゼロよりもっと強ければこんな拘束簡単に……ダメだ、あまりにも現実じゃない。 それならと必死に言い訳を考える、どうする…どうする。 簡単な言い訳なら通用しないだろ、勘のいい男だからな。 だったらゼロも分からないような言い訳だ! 「き、今日はその…お腹が痛い日だからダメ」 …我ながら追い詰められて酷い言い訳だと思う。 さっきまで散々妊娠しないと言っていたのに… こんなの信じる奴なんていないよな。 信じたとしても普通の腹痛だと思われておしまいだ。 次の言い訳を考えていたら、ゼロは考え事をしていた。 なんだ?まさかもう早速バレたか? 「それじゃあ仕方ないね」 おい、信じるのかよ!? 呆気なく俺から離れるゼロに白目を向ける。 …もしかして、魔力は天才だと思っていたが頭はバカなのか? 言った本人である俺の方が口を開けたまま固まっていた。 間抜けな俺を見てうっとりと微笑むゼロはもういろいろと手遅れだろうな。 ゼロは少し歩き続けクローゼットを開けてなにかを探していた。 「お腹冷えたら大変だから俺の服着て」 「…あ、りがと」 俺の身体を気遣うゼロに何とも言えない顔をしながら服を着た。 流石に下着は他人のは嫌だから新品をもらった。 ゼロの服はぶかぶかで、体格差を見せつけられたようで不機嫌そうに唇を尖らせた。 なんだろう、いつもみたいに優しいが…なんか違う。 ゼロに嫌われたいとは思っていない、ゲームのキャラとして気に入らないけど… なんだろう、このモヤモヤ… 「お腹痛いなら横になって、大丈夫…何もしないから」 優しげな顔のゼロからいつもの「なにかするだろ!」という気持ちにはならず、少しムッとした。 普通なら男ではあり得ない腹痛だから男はどうすればいいか戸惑うんじゃないか?…俺なら戸惑う。 …なんか慣れてね?いつも好きな女にこう言ってんの? あんな整った美形だ、彼女の一人か二人いただろう…ゲームでは結婚出来る筈が出来ない難攻不落だったけど… よく分からないが腹が立ちゼロの言葉を全く聞かずドアに向かう。 俺自身、この感情は不可思議だった。 「いや、俺帰るんで!」 「…なら送る」 「いいよ!…その、じゃあな」 気まずくなり部屋を出た。 廊下にはまだ猫の俺を探す騎士達がうろうろと歩いていて見つからないようにコソコソと離れる。 もう猫じゃないからバレる心配はないだろうか何となく追いかけられるのがトラウマになっていた。 俺の影にはいつの間にかゼロの影がくっついていて離れ離れになっていた恋人の再会のようにイチャついている。 なんかぐねぐね動いてきて気持ち悪い。 …何怒ってたんだろ、影を見て冷静になりため息を吐く。 「本当、仲良いな」

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