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第20話
あれから師匠のクエストをこなして、レイチェルちゃんに会う時間がなかなかなかった。
ゼロは会えなくてもいいんだが…借りた服をそのままとはいかないよな。
というかずっと影がいるからゼロが常にいるようなもんだしな。
そんな癒しがない監視だらけの恐ろしい生活も終わりに近付いていたら。
そう、とうとう待ちに待ったスノーホワイト祭が開催されるのだ!
一週間師匠の雷が落ちる事もないし、レイチェルちゃんにも会えなくなるがレイチェルちゃんのためにスノーホワイト祭に参加するから無問題だ!
後でレイチェルちゃんに会う楽しみが出来るし、頑張るぞ!
荷物を詰め込み、いざ出発した。
スノーホワイト祭の会場は雪山で行われる。
師匠からもらった地図によると徒歩じゃ無理なほど遠い。
魔法陣を出し、乗り移動する。
他にも空を飛ぶ人達が見えて、皆スノーホワイト祭のライバルだと分かる。
負けちゃいられねーな、あったかマフラーのために!
スピードを上げて急いで向かう。
雪山には既に沢山の参加者がいて、エントリーを済ませていた。
俺も魔法陣から降りて受付に向かう。
「グリモワールのツカサです」
「はい、ここに記入して下さいね」
受付にエントリーシートを渡されて、書いていく。
受付を済ませて、開始まで待機する。
…さ、寒い…もうちょっと受付ギリギリに来た方が良かったか?
猫耳ローブの上から防寒具を着て寒さに耐えていた。
ドワーフの子供達はタフだな、こんな寒いのに雪合戦してるよ。
まだ高校生なのにおっさんみたいにぐったりしてていいのか?
何処かで笛の音が鳴り響き、皆笛の方向を見る。
さっきの受付にいた眼鏡を掛けたお兄さんが手を上げている。
「スノーホワイト祭のルールブックは行き渡りましたか?まだの方は必ず受付に取りに来て下さい、一週間この雪山内で生き残り、特定のモンスターを倒すとルールブックにポイントが浮き出ます…雪山を出たら失格ですので、それでは一位を目指し頑張って下さい!」
再び笛が鳴り、皆いっせいに雪山を登り始めた。
俺ももらったルールブックを見ながら魔法陣に乗り移動する。
ルールブックを開くと最初のページにー命の保証は致しませんーという怖い文字が見えてゾッとした。
…もしかして、このスノーホワイト祭って死人が出るのか?
い、いやいや…死んでも家に帰るだけだし…大丈夫…だよな。
実際死んだ事がないから本当に家に帰るのか謎だが…
気を取り直してページを捲る。
まずは一週間寝泊まりする場所を作らないとな。
キョロキョロ周りを見ると、テントを張る者やコンパクトハウスを持参している者もいた。
…俺、金持ってないからそんなの買えないよ。
野宿なんてしたら凍死待ったなしだな。
なんかないかなぁと周りを見ると、影が何処か指差してるのが見えた。
なにか見つけたのだろうかと影が導く場所に向かう。
随分雪山の裏だなぁと思い、着いていく。
足場がある場所に降りて目を輝かせる。
「こ、これは…穴場スポット!」
俺の目の前に大きな洞窟があった。
風が吹く方向も逆だし、屋根があるから雨の心配もないし中も広そうだ。
寒さは凌げるだろう。
…しかし、一つだけ疑問がある。
何故、こんな穴場なのに周りに誰もいない?
参加者どころかモンスター一匹いない。
それは横の看板を見て一気に顔を青ざめた。
ーデーモングリズリー注意ー
デーモングリズリーってS級モンスターじゃねーか!!
確かルールブックの注意事項に書いてあった事を思い出して急いでペラペラと捲る。
ーこの雪山にはデーモングリズリーという怪物がいますので、見つけたら戦わず逃げて下さい…ポイント入らないので無駄死にしますよー
たっ、大変だ!デーモングリズリーの巣に来ちゃった!!
急いで帰ろうと後ろを向けると、足に響く地鳴りがした。
ガクブルと震えながら隠れる場所がないか急いで探す。
雪山に隠れる場所なんてなかった。
一歩一歩近付いてくる。
俺は遺書を書く事にした。
レイチェルちゃんが好きだったよ、うわぁぁん!!
「あれ、ツカサ早かったね」
人は驚くと本当にギャグのように転けるのだと学んだ。
頭からずっぽりと……さ、寒い。
何故かデーモングリズリーの巣からゼロが現れたら誰でも転けるだろう。
ゼロは不思議そうな顔をしながらこちらを見る。
…いや、不思議なのはお前の後ろだよ!と言いたい。
なんか後ろに巨大なものが見える。
「…ぜ、ゼロ…後ろのそれって」
「あぁ、これ…洞窟入ったら襲いかかってきたから倒した」
それ…デーモングリズリーじゃないか!
この世の終わりのような顔をしたデーモングリズリーを見て背筋が冷たくなった。
え、倒したの?雪山の魔王と呼ばれたソイツを?一人で?
お、恐ろしい奴が身近にいた!
洞窟外にデーモングリズリーを放り投げる。
大きな地鳴りが響きゼロの三倍はある巨体が地面に沈んだ。
「ツカサ、食べたい?」
「いらん!」
なんかお腹壊しそうだし…そもそも食えないと思うぞ?
空腹でも絶対に食べないと誓おう。
ゼロのおかげ?で雪山の脅威は去った…いや、一匹だけとは限らないけどな。
ゼロが此処にいるって事はゼロも参加者なのだろうか。
初日で物凄い手強いライバルが現れた。
ゼロなら優勝候補になるだろう…悔しいけど…
「住む場所がないなら此処に住めばいい、ツカサのために掃除もしたから」
「ありがと…って、いやいやいや!敵の情けは受けない!俺は一人で頑張る!」
「…敵?」
「ゼロもスノーホワイト祭に参加してるから雪山にいるんだろ!?」
「まさか、景品とか興味ないし」
「…え、じゃあなんでいるの?」
「一週間ツカサに会えないのは嫌だから」
そこでキラキラモーションになるなよ…無駄遣い過ぎだろ。
ゼロが手招きするが、ゼロと二人っきりは避けたいと思っていたが俺の横にあるデーモングリズリーの死体を見て怖くなりゼロに着いていく。
モンスターの血は他のモンスターに存在を知らすのか雑魚モンスターは近付かない。
スノーホワイト祭の参加者もデーモングリズリーより強い奴が洞窟にいると思い近付かないだろう。
…間違ってはいない、あ…勿論俺じゃないよ。
ゼロの影は俺に付いているから影なしで倒したのだろう。
腰に剣をぶら下げているし…そりゃあ剣士レベル250だしな、デーモングリズリーも片手で倒せるんじゃないか?
洞窟の奥は風が全く来なくて、ほんのり温かい。
むしろ防寒具を着ていて暑くなり、防寒具を脱ぐ。
荷物を降ろし、必要最低限の物だけ装備する。
ゼロは俺が置いてくものを整理している。
外は寒いから防寒具を着直して脇にグリモワールの本を持ち、ショルダーバッグを掛ける。
「何処か行くのか?俺も…」
「いや、ゼロは留守番をお願い…これは俺自身がやらなきゃいけないからな」
「…分かった」
ゼロは俺の思いを尊重してくれた。
いざ、狩りに出かけるとしようか!
びゅうびゅう風が吹き、冷たさで頬が痛いが魔法陣を出し移動した。
日が暮れるまでに少しでも多くポイント稼ぎをしたい。
下を見るともう何人か点数稼ぎを始めていた。
俺がのんびりしすぎたな。
なるべく参加者が固まってない場所に降りて本を開く。
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