21 / 22
第21話
「行くぞ!ミュミュ!」
ショルダーバッグから顔を覗かせたミュミュは勢いで飛び出した。
目の前にはまん丸な饅頭が二つ積み重なったような雪だるまが強い弾力で飛び跳ねていた。
ガイドブックに乗ってたスノーホワイトの弱点は炎。
グリモワールの魔法には黒の炎という人魂で相手を焼き尽くすものがある。
呪文を唱えようと集中する。
何日も暮らしていたら厨二病セリフが全然恥ずかしくなくなるな…慣れって怖い。
「グリモワールツカサが命じる!黒き炎よ、その身を焼き尽くせ!」
俺の周りに黒い人魂が現れてスノーホワイトにいっせいに襲いかかる。
スノーホワイトは逃げようにも四方八方から迫る人魂にどうする事も出来ず、溶けていく。
バシュッと一気に水になった。
ふぅ…これで一匹だ。
スノーホワイトの水の中からスノー結晶を指で摘まむ。
角砂糖サイズの小さいものだが、俺にとっては大切なものだからショルダーバッグの中から保冷パックを取り出し入れる。
ガイドブックを見て点数を確認する。
ー50pー
「はぁ、まだまだだな」
もっと効率よく倒せる魔法はないかとグリモワールの本を見る。
呪い系だからな…氷系に何処まで通用するか…
魔法騎士とか普通の魔法使いの方が有利なイベントなのかもな。
…というかグリモワールに有利なイベントなんてなさそうだな。
そう思っていたら前方にスノーホワイトが現れた。
日が暮れるまでスノーホワイトを狩るのに夢中になっていた。
スノーホワイトが水になっていくのを息を切らしながら眺める。
寒いのに運動して汗が止まらない。
「つっ、かれたぁー…冷たっ!!」
雪山という事を忘れて思いっきり地面にダイブしてしまった。
すぐに起き上がったがガチガチと寒くてたまらない。
急いで戻ろうと魔法陣を出す。
目印となったデーモングリズリーを探す。
二本の羊の角に茶色い巨体、コウモリの羽根が生えてるのがデーモングリズリーだ。
いつ見てもシュールな光景が見えて降りる。
すると、美味しそうなニオイがする。
クンクン嗅ぐとどうやら洞窟内からのようだ。
ニオイに誘われるように向かうと、初めて入った時より洞窟内が暖かく…急いで防寒具と猫耳フードを脱ぐ。
そして奥にあったのは真っ赤に燃える焚き火の上に鍋を置きなにかを掻き回しているゼロがいた。
ゼロは俺に気付き掻き回す手を止めた。
「おかえり」
「ただいま」
衣類とバックを端に置く。
鍋の中を覗くと、クリーム色のシチューみたいだ。
ごくっと喉を鳴らし…ついでに腹もきゅるきゅる主張している。
疲れたから余計腹が減ったな。
ゼロはそれを聞き小さく笑うと鍋の中のシチューっぽいのを器によそい俺に差し出した。
……まさかデーモングリズリーじゃないよな、食わないって言ったし考えすぎか。
「お疲れ様、ツカサのために作ったから食べて」
「…いいのか?」
「こうしてるとまるで新婚みたいだろ?」
「ゼロが妻みたいだけどな!」
器を受け取り冗談のように笑いながら言う。
ゼロは小声で「…俺としてはどっちも同じだけどな」と言っていた。
俺はそれを聞かなかった、何も聞かなかった。
地面に座り手に持つ器から暖かさが滲みスプーンで掬い口に入れた。
何の味がよく分からないが美味しい。
勢いよく口に運ぶとすぐに器の中身が空になった。
「おかわりは沢山あるからな」
「おかわり!」
何杯目かのおかわりをして気付いた事がある。
…あれ?なんか親子みたいじゃね?
夫婦というより親子だなぁと思い、結論でどうでもいいかと思い再び食べる。
すっかりお腹いっぱいになり、外も暗くなっていた。
汗掻いたし身体を拭くかな?と置いていった荷物を探る。
俺が持ってきたのは拭くだけで風呂上がりみたいに綺麗になるウェットティッシュだ。
雪山に風呂が入れる場所なんてないし、あっても氷水に浸かるほど馬鹿ではない。
その時に、このウェットティッシュが便利なんだよなぁー…使った事ないが…
着替えを用意してシャツを脱ごうとした手を止める。
…なんだ?この嫌な熱視線は…
後ろを振り向くとやはりゼロがジッと見ている。
白けた目で見る。
「…なんですか?」
「いや、ツカサが俺を誘ってるから」
「誘ってない!変な勘違いすんな!俺はただ、身体を拭こうと」
「……身体?俺がやってあげる」
ジリジリと一歩一歩近付くゼロをかわす。
そうだった、コイツはこういう奴だった…いろいろ世話を焼いてくれるから忘れていた。
ゼロがいると身体も拭けないのか!?
最悪外で…いや、夜の雪山は昼よりも寒いだろう。
我慢するか、でも汗で気持ち悪いしな。
どうしようかと考えていたらゼロは追い詰めるのをやめた。
「ツカサは疲れてるからね、ゆっくり休むといいよ」
「…へ?ゼロは?」
いきなり態度を変えたから驚いて聞いてしまいすぐに口を塞ぐ。
これじゃあまるで俺が寂しいみたいじゃないか!断じてない!ありえない!
俺はただゼロが見つけてきた洞窟なのに俺に遠慮していいものか思っただけだ!
さすがに気にせず使うほど恩知らずではない。
身体を拭きたいと思ったのは俺だから俺が我慢すればいいものだろう。
ゼロは俺を見て笑った。
「外で野宿する、慣れてるから」
そう言いゼロは洞窟を出てしまった。
住む場所も食事も用意してくれたゼロを追い出すような形になり、心が苦しくなった。
…別に見るだけなら俺が気にしなきゃいいし、少しくらい触っても…お礼だと思えば…
ゼロが見えなくなり、追い洞窟を出るとそこにはゼロの姿はなかった。
何処で野宿するつもりなのか、夜の雪山はモンスターも強くなり野宿は危険だ。
…ゼロは強いけど…
Tシャツに短パンだけの寒い格好で出てきて、震えた。
ゼロを探しに行きたいが、このままじゃ俺が遭難してしまう。
明るくなってからゼロを見つけて話し合おうと思った。
洞窟内に戻るととても暖かくてほっこりした。
ともだちにシェアしよう!