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第5話

 藤夜は夏樹の手を取り立ち上がると指を絡ませて恋人繋ぎをした。 「夏樹。このままお前の家まで行かねえ?」  藤夜がそのまま歩き出したことに夏樹は慌てふためいた。 「馬鹿言うな! こんなの……おかしいって思われる」  藤夜はまるで憑き物が落ちたような清々しい顔で夏樹を振り返る。   「どうせふざけて罰ゲームでもしてる風に見えるよ。俺はただ――男女のカップルみたいに恋人同士手を繋ぎたいだけなんだよ」 「……藤夜」  そうして二人は早足で境内を出ていった。  行きかう人々の大多数は彼らのことなど眼中にないが、ちらほらと「え?」と戸惑いを顕にした声を上げたり、怪訝そうな顔をして注目する者もいた。人々の視線がまるで鋭い刃のように心身を突き刺す。夏樹は尻込みし、頭を垂れ藤夜の手を離そうとする。  だが、藤夜は夏樹の腕を力強く引き寄せると固く手を握り直した。彼の瞳が寂しそうに揺れているのに気付き、夏樹は鼻の奥がツンとした。  夏樹は顔を上げると藤夜の手を強く握り返し引っ張るようにして走りだした。藤夜は最初戸惑うような表情をしたが、直ぐに夏樹と並走し人の波を掻きわけていく。  袋から鍵を取り出し家の扉を開け、乱雑に履物を脱ぐと二人は階段を駆け上り夏樹の部屋へと入り扉を閉めた。二人とも汗だくで肩で息をしながら、走った後の高揚感のまま声を上げて笑い合った。 「やっべえ! こんなに走るの久々」 「そうだな。あっついな……」  二人はどちらからともなく顔を近付け、鼻を擦り合わせて口付けた。唇を合わせるだけのものがどんどん深いものへと変わっていく。 「――俺な、10年後も50年後もお前と一緒にいて、今日あった出来事も、あの時はあんな馬鹿やったなって笑い合いたいんだ」  藤夜は夏樹の浴衣の帯を外し腰ひもを緩め床へと落とし、自らのシャツを脱ぎ捨てた。夏樹の体を優しくベッドへと横たわらせ、浴衣をはだけさせると彼のしっとりした肌を愛撫する。 「俺だって、死ぬまでお前と離れるつもりはないよ。誰になんと言われようと」  固く閉じた窄みに潤滑剤を纏わせた指を潜り込ませる。指一本の時点で引き攣るような痛みと違和感があって夏樹は無意識に唇を強く噛んだ。 「ごめん、痛いか。……情けないな。俺、初めてだからきっと上手にできない。お前を傷付ける」  そうやって動作をとめて、しゅんと落ち込む藤夜に夏樹は愛しさを募らせ、頬を撫でた。 「なんだよ。お前も初めてとかめちゃくちゃ嬉しいんだけど。……辛くたっていい。痛みも苦しみもお前とだったら乗り越えられる。だから、来いよ」 ※  藤夜は夏樹の顔にキスの雨を降らせながら、屹立した自身をあてがった。圧をかけて、ゆっくり慎重に蕾が開かれる。それでも鈍痛が襲い掛かってきてどちらも歯を食いしばる。   一番太いところがおさまれば、後はずるりと中へ入った。  ふいにポタポタと頭上から生温い液体が降ってくる。 「お前と一つになれるなんて奇跡だ。こんな幸せはない。っ、夏樹……ありがとう」 「……藤夜。っ、ぁ……とう、や……」  藤夜はゆるゆると緩慢な動きで夏樹を甘やかすように愛した。夏樹は藤夜の背に腕を回し、ぎこちないながらも自らも腰を揺らめかした。  ――外から爆発音がする。花火大会が始まったのだ。  夜空に赤、青、緑、黄と色とりどりの花々が咲き、あっという間に散っては姿を消す。それだけが、暗闇の中で息を潜めるようにして交わる二人を照らす唯一の光だった。  夏樹は少しずつではあるが、とろけるような快楽がじわじわと背筋から伝わってくるのを感じた。藤夜は彼の顔付きが変化したころにほっと息を吐き、徐々に挿入を速める。 「うっ、ん……ぁっ、あ」  藤夜の唇が夏樹の体にそっと触れる。 「好きだ、夏樹。……好きだよ」 「っ、俺も……好き。……あ、あ、あぁ!」  同時に熱がパッと弾け、体が気だるくなるのを感じながら互いの体を抱き締めた。 「俺、こっちの大学卒業したら東京で就職してお前と暮らしたいなって思ってる」  窓を開け放ち、ほどよく冷たい夜風を受け鈴虫の声を聞きながら、二人は夏掛けを頭の上から被り、うつぶせの状態で内緒話をするように小声で囁きあった。 「……一緒に東京の大学を受けるのは無理か?」 「家庭的な事情もあるからな。――いいんだ。ちょくちょくお前んとこ遊びに行くつもりだし、これから先いっぱい色んな思い出作っていけるから」  ニッと歯を見せて笑いながら夏樹は藤夜の手を握った。 「そうか。いつでも来いよ、待ってる。もちろん俺も会いに行く」 「うん、ありがとな。……まあ、今年は受験勉強が思い出の年になりそうだな! 第一志望受かるように頑張ろうぜ」 「ああ、まずは桜咲くようにしないとな」  ――彼らはこれから先も衝突したり擦れ違うこともあるし、周りに迷惑をかけたり、人から受け入れられず傷付いたりするだろう。だが、二人にとって今日という日は永遠に忘れられない思い出となり、明日(未来)を生きていく上での道標()となる。  夏樹と藤夜はそれぞれの体温の心地よさに包まれながら穏やかな眠りについた。満月の光が柔らかく部屋に差し込む。  窓の外では満点の星がキラキラと輝いていた。 (End.)

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