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いち
燦燦と輝く太陽に、ヒマワリが花開く。
「家に帰らないといけないんだ」
光を映した瞳は白く透ける肌。細い顎を汗が伝い、琥珀の瞳に長い睫毛が影を作った。
ぬばたまの髪を耳にかけ、白い花の顔に墨汁の黒が映って儚げな印象を持たせた。小さい鼻や赤い唇、華奢な身体付き、中性的な相貌は触れることを躊躇わせる繊細な硝子細工のような美しさを秘めていた。
隣を歩くルームメイトのトーヤは首を傾げながら志荻の視線を追う。
「毎年帰ってるだろ?」
「今回はちょっと面倒くさくて。休み期間中はほぼアッチにいることになると思う」
「 ってことは一緒に花火見れないの!?」
涼やかな清流の瞳を大きく見開かせて寮への帰路を辿っていた足を止める。
春は花見、夏は花火、秋はもみじ、冬は鍋。帰省しないトーヤは、ここぞとばかりに学園での生活を志荻と楽しんだ。――今年も一緒に花火を見る約束したのに。
「もしかしたら冬もダメになるかもしれない」
「でも夏休み初日から最終日まで地元ってわけじゃないんだろ?」
「……あー」歯切れの悪い志荻に、まさか、と口を閉ざした。
「……もしかしたらなんだけど、夏休み始まる前に行くかもしんない」
居心地の悪い沈黙が流れる。自分だって、地元に帰省するよりトーヤと花火を見たい。冷えた麦茶を飲みながら、シートを敷いて寝そべって花火を見る。――楽しみにしていたのに。
遠くの木で蝉が鳴いている。じっとりと、汗がこめかみを伝った。
「帰省して何すんの?」低い声音だ。
「夏祭り、みたいなの。川で燈籠流しとか、花道中とか」
半歩前を歩いていたトーヤは不思議そうな表情で振り返り首を傾げる。
花道中――集落の中でも特に大きい屋敷の次期当主たちが華美絢爛に着飾り、行列を成して集落と幽の中を練り歩く、志荻の地元特有の独特な風習だ。
閉鎖的な一族だ。伝承に載らず、伝説にもならず、口伝えでしか語られない鬼の角を持つ一族。結晶のように儚い角は美しい花を咲かせる。とても特殊な一族だ。角があることを、志荻は隠している。
「夏祭りっぽくない」
「夏祭り要素なんて燈籠流しくらいだよ」
「それだけ特殊な夏祭りなら、観光客とか見物人とかけっこう来るじゃない?」
「完璧身内だけのやつだから。毎年やってるわけでもないしさ」
「それ、僕が行ったらダメなのかな」
とても良いことを思いついた、とでも言うかのような満面の笑みだった。
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