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ろく
日が昇る直前、薄藍の空。
ひとつ、額に口付けを落とし、潜めた声で囁く。
「――待ってる。僕と一緒に来てくれるなら、山の麓まで来てほしい」
懇願に近い声だった。
耳元に当たる熱い吐息。唇を啄ばむ柔らかい感触。清流の瞳が熱と恋情にとろける。肌を撫ぜる手のひらの感覚。ナカを抉る、逃げようのない快感を思い出して、背筋が震えた。
隠し戸は、巧妙に隠されていた。神隠しをされたと思われていた先人たちも、この隠し戸を使って外の世界へ出て行っていたのだろう。外の世界へ出て、ひとりじゃなにも出来ない自分は生まれたての子猫同然に死んでいく。けれど、そこにトーヤがいる。
隠し戸の先は、暗い暗い地下通路。ずっと先へ進めば、村の反対側にある湖に出る。外へ出たら、村へは二度と戻れない。――たったひとりの、双子の弟。出来ることなら共に、と願うけれどあの子は外じゃあ生きていけない。
「……ごめんね」
薄闇のお社に、懺悔が零れた。
白黒の世界で、鮮やかに見える恋しい人。彼の人に似合う花はなんだろうか。はらり、と。真っ白な花びらが散り、真っ赤な花びらが咲き誇る、躑躅は強い香りを放った。
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