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「あの日は本当に酷い目にあった!」
千暁は憤慨して、以前にも言った覚えのある台詞を言い放つ。
「いやあ悪かったよ。まさかブレーキと踏み間違えるなんて」
「耄碌するには早すぎるんじゃないですか!?」
「いやーごめんごめん」
「まあ、お互い生きていて良かったですよ。車は……残念でしたね」
「……もう、いいんだ」
死のうとしたあの夜、溺れる千暁を助けたのは慎司だった。
思い出のBMWは沈み、慎司はそこに結婚指輪を投げた。
家族との、本当のお別れだった。
「ま、これからもよろしくね、秘書くん?」
千暁は社長秘書に抜擢された。
千暁と慎司は“二人で"日々を過ごしている。
「ところで、息子さんと同じ名前の僕を、よく抱けますね」
「え?子供にまだ名前は無かったよ。君は妻と同じ名前なんだ」
「そっち!?……それはそれで複雑です」
「ま、本当の採用理由は後を付け回したくなるくらい顔が好みだったからだけどね」
「えぇ!?じゃあ、顔採用って本当だったんだ……」
「人聞きが悪いなぁ“一目惚れ”って言ってくれる?」
社長室の机には、最新の車と指輪のカタログが何冊も置かれていた。
終
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