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顔を突き合わせてする話でもないし、ドライブしよう
と慎司に連れ出された。
いつかの夜景が見られる首都高ではなく一般道を進んでいく。
ビルは小さくなり、車も減り、人影も無くなる。
暗い方へ、暗い方へと進む。
「全く蜷川は口が軽いなぁ、人の過去をべらべらと」
「僕が無理矢理聞いたんです。慎司さんのことが知りたくて」
「ほう、俺は君に愛されてるねぇ」
「ええ」
「……千暁くん」
「はい」
「俺と一緒に、死のうよ」
千暁は返事が出来ない。
「君も、本当は死にたいんだろう?
独りは辛いだろう?
俺らは同じだよ。
同じように独りだ。
一緒に死んであげるからさ、ね?」
慎司は虚ろな目で甘言を囁く。
ここで嫌だと言ったら、慎司はあっさりと引くだろう。
そして別の誰かを理由にして逝くのだ。
いつも甘えさせてくれる慎司が、千暁には大人に見えていた。
でも彼だってちっぽけな一人の人間なのだ。
一人で死ねなかった父の弱さを憎めなかったように、
誰かを理由にしないと死ねない、脆い慎司を責める事が出来ない。
千暁は父の弱さも、慎司の脆さも、まるごと愛していた。
車のスピードは上がる。
カーブで膨らみ車線をはみ出し大型トラックがすれすれで通り過ぎていく。
クラクションが反響する。
「……君も俺も、ずっと独りだよ」
「慎司さん」
名前を呼ぶことしか出来ない。
同情も励ましも叱咤も、主観を含んだそれらに意味が無いことを、千暁自身が一番知っている。
孤独の悲しみも、死への渇望も、本人の物で他人の手に負える物ではない。
さらにスピードは上がる。
ガードレールにぶつかりサイドミラーが折れ、摩擦で火花が散る。
「聞いて、慎司さん」
主観を含んだ言葉に意味は無いが、事実だけは伝えることが出来る。
その事実は、真実だ。
「僕達は独りぼっちかもしれないけれど」
最期に、真実だけを彼に伝えよう。
「独りと独りで、今は……二人ですよ」
慎司の目が見開かれる。
アクセルから足を離し一瞬減速したが、
次の瞬間、力いっぱいアクセルを踏み込んだ。
柵をぶち破った車体が宙に浮く。
眼下は真っ黒に広がる海だった。
――ああ、僕はまた海の底へ連れて行かれるのか。まったく僕の周りのオヤジどもときたら……
そんな気持ちで、暗闇の中へと落ちていった。
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