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第63話

「お待たせ。……もう、入って良いよ」 玄関のドアが開き、ハルオが顔を出す。 「……」 その姿は上半身裸で。シャワーでも浴びたんだろう、肌や髪がしっとりとしていた。 靴を脱ぎ部屋に上がると、リビングに小柄の男がしおらしく座っていた。背中を少し丸め、服の具合を気にするように何度も襟元を弄っている。 「もう気付いてると思うけど、……俺達は、セックスフレンドなんだよ」 「……ぇ……」 セフレ──つまり、恋愛感情無しで、エッチする関係って事? 驚いて小柄な男を見れば、不満げな表情でハルオを見上げる。 「そういう条件で、付き合っていたんだけどね。ちょっとした行き違いがあったみたいで……」 言いながら、ハルオが寝室へと消えていく。 「……」 そう、なんだ。 ……ああ、だからハルオは『ふざけてはない』って…… 「……ねぇ」 ハルオから、僕に視線を移す小柄な男。その目は相変わらず敵意に満ちている。 「アンタさ、彼氏に捨てられたんだってね。 タダで泊めてくれそうなダチが何人かいるから、僕が紹介してあげよっか?」 そう言って、口の片端を持ち上げ、不敵な笑みを浮かべる。 「……」 僕が来た事で、曖昧な境界線に一線が引かれた。 突然現れた僕がここに泊まるのを、快く思っていないのも解る。それだけ、ハルオを好きなんだって事も。 「……そういう事言うの、やめろよ」 寝室から戻ってきたハルオが眉根を寄せ、静かに言い放つ。 「外、寒かったよね。これ使っていいから、シャワーでも浴びて温まっておいで」 「……」 手渡されたのは、大きいサイズの長袖Tシャツ。 ハルオの私服なんだろう。ハイジとは違う匂いに、抵抗感が募る。 「……帰る」 その様子を座ったまま傍観していた小柄な男が、鋭い目付きで言い放つ。 「ん、解った。気をつけて帰ってね」 悪気も執着もない、ハルオの作ったような優しい笑顔。さらりとしたその返しに、小柄な男が頬を膨らませる。 「──ハルオの、バカッ!」 タッ、と駆け出し、部屋を出て行く。 「………あの、追い掛けなくて、いいんですか?」 「うん。ここで優しくしたら、また誤解させちゃうからね」 「……」 怖ず怖ずと声を掛けた僕に、先程とは違う優しい笑顔を僕に向けた。

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