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第23話

熱々の鉄板に乗った牛ロースステーキが、じゅうじゅうと音を立てる。 立ち上る湯気。ソースの焦げる香ばしい匂い。付け合わせの野菜は、料理に彩りと華やかさを与えてくれる。 「……うまそーだなっ」 ナイフとフォークを持ったハイジが、器用に肉を切り分ける。 「うん……」 こんなご馳走なんて、初めてで。夢みたいだなんて思ってしまう。 見よう見まねでナイフとフォークをそれぞれ持ち、ステーキ肉の端を一口サイズに切る。 柔らかくて、赤みのある断面。溢れる肉汁。フォークの先に刺したその肉片を、鉄板の上で少しだけ煮詰まったソースに絡めて口に含めば、頬が落ちる程……美味しくて。 「……」 心が震える。 幸福感を味わう程に襲う、妙な不安感。 僕なんかが、こんな贅沢な思いをしてしまっていいのだろうか…… それまでの僕は、学校以外でまともに食事なんて摂れなくて。見兼ねたおばあちゃんが、その度に余ったご飯で塩おにぎりを作ってくれた。それが美味しくて。泣きながら頬張ったのを、今でも覚えてる。 それから……この先困る事が無いようにって、まだ幼い僕に料理を教えてくれた。初めて作った卵焼きは焦げてしまったけど。おばあちゃんと一緒に食べたあの食事は、今までで一番楽しくて。……とても、幸せな時間だった。 「……」 あの時と同じ位、幸せな気がする。 少し前の僕からは、想像できなかった。こんな未来が待ってるなんて…… でも、だからこそ怖い。 突然亡くなったおばあちゃんのように、……ハイジを、失いたくない。 「美味しい……」 喉を通り抜ける、多幸感。 声に出してしまえば、それまで心の中で蟠っていた不安まで、溶けて無くなっていったような気がした。 「……だろ?」 得意げな眼で答えながら、屈託のない笑顔を見せるハイジ。 「ん……」 頷きながら、つられて微笑む。 隣の席が気にならない造りの店内。 遠くから微かに聞こえるBGM。適度な雑音。暖色系のライトが、二人だけの空間を演出する。 それに。ランタンから溢れる光が、更に雰囲気を醸し出していて…… 「……なんか、デートみたい」 「みたい、じゃねぇ。……デートだ」 ──カチャン、 ナイフとフォークを皿の端に置き、口に入れたものを飲み下したハイジが真剣な眼差しを向ける。

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